本判決は、地方公共団体の長による退職申出の撤回を適法とした。
事案は次のとおりである。某市選挙管理委員会は、昭和37年7月21日、市長Aの任期が同年9月15日に満了することから、任期満了による選挙(公選33条1項)を8月31日に告示して9月10日に執行する旨を決定した。その後、Aが、8月31日をもって退職する旨を市議会議長に申し出、同月20日に市議会がこれに同意したが、Y(県選挙管理委員会―被告・被上告人)から、退職申立てがあった場合の選挙(公選34条1項・114条)に変更されていないと指摘されたため、同月30日、Aは退職申出を撤回、市議会もこれを了承し、当該選挙は、当初の予定どおり、任期満了による選挙として告示・実施され、Aが当選した。これに対し選挙人Xら(原告・上告人)が、本件選挙の無効確認を求める訴えを提起し、Aの退職申出撤回は無効であると主張した。第1審(仙台高判昭和39・2・18行集15巻2号197頁)は請求を棄却、最高裁も、①地方自治法は地方公共団体の長の任期中の退職を原則として自由としているから、退職申出の撤回は原則として許され、このことは、議会が退職に同意していたか否かで区別されないこと、②議会の同意は、退職自体の許可・承諾の意味を含むものではなく、法定の退職時期の繰上げを可能とするだけで、退職の意思表示を不動のものにするわけではないこと、③本件では、Aの退職申出の後、これを基礎として新たな公的秩序が形成されているわけではないこと、④信義則上Aの撤回を咎むべき事情もないことから、Aの退職申出撤回を有効とし、Xの上告を棄却した。