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Ⅰ はじめに

AI (Artificial Intelligence :⼈⼯知能)技術は急速に進歩している。深層学習(Deep Learning)技術によるブレークスルーによって1)「人工知能、トップ棋士破る、グーグル開発、囲碁で対戦、人の脳まねた学習威力」日本経済新聞2016年3月10日朝刊。、いわゆる認識系や識別系のAIの能力は一気に向上し、産業面を中心に実社会での応用が、この5~6年で一気に進んだ。そして、2022年あたりから2)朝日新聞データベースを検索すると、画像生成AIについて紹介する記事が最初に掲載されたのは2022年8月、ChatGPTについて触れる記事が最初に掲載されたのは2022年12月だった。、いわゆる生成AIへの関心が一気に加速し、今では、日々のニュースで生成AIの言葉を聞かない日はないぐらいになっている。¶001

生成AIという言葉に、確立した定義があるわけではないが、本稿では、一見する限り、人間が作成したものとの差を見つけるのが簡単とは言えないレベルのクオリティの画像や文章、楽曲、動画などを出力するAIを生成AIと呼ぶことにしたい3)参考までに、バイデン政権によるAIに関する大統領令(Executive Order on the Safe, Secure, and Trustworthy Development and Use of Artificial Intelligence (14110))での定義を示すと「『生成AI』とは、推論により合成コンテンツを生成するために、入力データの構造や特性をエミュレートするAIモデルの種類を意味する。前記コンテンツには、画像、動画、音声、テキスト、その他のデジタル・コンテンツが含まれる」となる。なお、「『合成コンテンツ』とは、アルゴリズムによって(AIによる場合を含む)大幅に改変または生成された画像、動画、音声クリップ、テキストなどの情報を意味する」と定義され、「『AIモデル』とは、AI技術を実装し、与えられた一連の入力から出力を生み出すために計算技術、統計技術、または機械学習技術を使用する情報システムの構成要素を意味する」と定義されている。
ちなみに「『人工知能』または『AI』という用語は……人間が定義した所定の目的のために、現実環境または仮想環境に影響を与える予測、推奨、または決定を行うことができる機械ベースのシステムを意味する。人工知能システムは、現実環境および仮想環境を認識するために機械ベースおよび人間ベースの入力を使用し、自動化された方法での分析を通じて前記認識をモデルに抽象化し、情報または行動の選択肢を策定するためにモデル推論を利用する」と定義されている。
¶002

生成AIは、想像以上のスピードで社会に普及し始めている。読者の中にも、ビジネスやプライベートで、生成AIを使用している人は決してまれではないだろう。そのような中、当然生まれる疑問は、生成AIが生成した画像や文章などが、知的財産法制の中でどのように扱われるかという点である。¶003

例えば、生成AIが、自動車のデザインを出力した場合、それは意匠権で保護されるのか。また、生成AIが出力したロゴは、商標権の保護対象となり得るのか。さらに、技術開発の過程で生成AIを利用した場合、生み出された技術は発明として特許され得るのかどうか。そして、生成AIを利用するほとんど全ての人に最も身近な問題は、AIが生成した画像や文章、楽曲、動画などの表現(以下、AI生成表現)が著作物として保護されるのかどうかであろう。本稿では、この最後の問題、すなわちAI生成表現の著作物性について取り上げて検討してみたい。¶004

もっとも、「文芸、演劇、音楽又は美術の著作物」に関し、「人間の著作者が存在しない状況において著作物がコンピュータにより生成される」4)以降も含めて、引用した英国著作権法の和訳は、大山幸房 = 今村哲也訳「外国著作権法──イギリス編」著作権情報センターウェブサイト(英国著作権法178条)場合について「著作者は、著作物の創作に必要な手筈を引き受ける者であるとみなされる」(同9条(3)項)旨を定める英国5)英国著作権法は、コンピュータ生成著作物の保護期間を生成から50年間(12条(7)項)とし、著作者人格権(著作者または監督として確認される権利および著作物を傷つける取扱いに反対する権利)は付与しない旨も併せ定めている(79条(2)項および81条(2)項)。6)文芸、演劇、音楽、美術以外の著作物、例えば、映画に関しては、コンピュータ生成の場合についての特段の規定がないため、通常どおり「製作者及び主たる監督」(英国著作権法9条(2)項)が著作者となるものと思われる。その場合、保護期間や著作者人格権についても通常の規定が適用されるのだろう。とは異なり、我が国は、AI生成表現の著作物性について特記した法律上の規定を有さない。¶005

裁判例についても、残念ながら、管見の限り、本稿執筆時点では、我が国には未だ、AI生成表現の著作物性を判断した裁判例が存在しない。一方、米国では、2023年の8月に早くも裁判所の判断が示されているし、著作権登録との関係で7)米国においても、登録は、著作権の発生要件ではないが、米国著作物については、著作権登録が侵害訴訟の提起要件となっている(米国著作権法411条(a)項)。また、登録の発行前に行われた侵害に対しては、原則として、損害賠償を請求する際に法定賠償を選択できず、弁護士費用の請求もできない(412条)。そのほかにも、著作権登録には実務的な有用性が多々あるため、著作者が重要と考える著作物について、登録のための出願がなされるのは通例である。、(行政機関である)著作権局が著作物性について判断を示す機会も多い。また、中国でも、現在話題の画像生成AIで生成された画像の著作物性を論じた裁判例が、まさに本稿執筆中に公開され注目を集めている。¶006

そこで本稿では、まず、米国の裁判例および著作権局の決定、中国の前記裁判例を簡単に紹介した上で、我が国著作権法でどのように考えることになるのかを検討してみたい。¶007

Ⅱ 米国の裁判例など

1 楽園への新しい入り口事件8)Thaler v. Perlmutter, 2023 U.S.Dist. LEXIS 145823. なお、ニュースによれば、本件は控訴されているとのことである。

最初に取り上げるのは、表現の生成過程に人間が関与せず、いわばAIが100%自律的に生成した場合に、著作物性が認められるのか否かが争われている事件である。¶008

(1)事案の概要

Steven (Stephen) Thaler (ターラー)博士は、2018年、絵画作品「A Recent Entrance to Paradise(楽園への新しい入り口)」について、著作権登録を出願した。その際、出願書類の著作者欄には「創作機械」と記載され、著作権者の欄にはターラー氏が「機械の所有者」として記載されていた。ターラー氏は、申請書において、作品は「コンピュータアルゴリズムを実行する機械によって自動的に生成された」と述べた上で、この作品を、雇用著作物(work made for hire)と位置づけ、創作機械の所有者である自身に著作権を登録することを求めた。¶009

2019年、著作権局は「著作権を享受するために必要な人間(human)による著作行為が欠けている」として登録を拒絶した。これに対して、ターラー氏は2度の再審査請求を行ったが、著作権局は同様の理由で、いずれについても退けた9)著作権局の決定内容の詳細に関しては、奥邨④・後掲注22)32頁~33頁参照。。そこで、ターラー氏は、著作権局の決定を不服として、その取消しを求めて、ワシントンD.C.連邦地裁に提訴した10)この訴訟は日本で言えば、特許法上の拒絶査定不服審判請求不成立審決取消訴訟のようなものである。ちなみに、被告のPerlmutter氏は著作権局長であり、いわゆる職務上の被告である。¶010

(2)判決の概要

判決は、米国著作権法102条(a)項が、「著作行為による創作的な作品であって、現在知られているか、または後に開発される、あらゆる有形の表現媒体に固定されたもの」に著作権が付与されると定めていることに触れた上で、「著作権は、時代に適応するように設計されている。しかし、その適応性の根底には、たとえ、新しいツールや新しいメディアを通じて発揮されたとしても、人間の創造性こそが著作物性の根幹をなすものであるという一貫した理解がある」と述べた。¶011

そして、今から約140年前に、写真の著作物性が問題となった最高裁判決(Burrow-Giles Lithographic Company v. Sarony, 111 U.S. 53 (1884))を取り上げ、「カメラは実際の情景の機械的な再現にすぎないとしても、それは写真家が写真の知的概念部分を構築した後の出来事にすぎず」、前記知的概念部分は、「被写体にカメラの前でポーズをとらせ、衣装やカーテンその他様々なアクセサリーを選択・配置し、優美な輪郭を示すように被写体を配置し、光と影を配置・配列し、期待した表現が連想・喚起し、そのような配置、配列、表現から全体的なイメージを作り上げるなどの撮影者の決定によって最終的な形が与えられる」ものであり、写真に著作物性が認められたのは、まさに「作品に対する人間の関与と最終的な創造的支配」が存在した故であると指摘した。¶012

その上で、「しかしながら、著作権は……人間の手を全く介さずに作動する新技術によって生み出された作品を保護するほど、大きく拡張されたことはない。人間の著作行為の存在は、著作権の根幹をなす要件である」と説き、「著作権の保護を主張するためには、その創作者は人間でなければならない」と指摘した。また、著作権制度の目的が創作の奨励にあり、そのインセンティブとして著作権が付与されることに触れた上で、「人間以外の行為者には、米国法の下で、排他的権利を約束することを通じた動機づけは不要であり、著作権はそのような行為者を対象とするようには設計されていない」とし、本件「作品の創作に人間が一切関与していない以上、明確かつ単純明快な答えは、著作権局が示したところである」として、著作物性を否定する著作権局の結論を是認した。¶013

2 暁のZarya事件11)詳しくは、奥邨④・後掲注22)33頁~36頁参照。

楽園への新しい入り口事件は、先述のように、表現の生成過程に人間が一切関与せず、AIが100%自律的に表現を生成した場合について判断したものであった。では、AIによる表現の生成過程に人間が一定の関与をした場合は、どのように判断されるのだろうか。¶014

この問題について、現時点で米国裁判所の判断は示されていない。ただ、著作権登録との関係で、著作権局がいくつかの判断を示している。ここではそのうちの1つである、暁のZarya事件を取り上げて紹介したい。¶015

(1)事案の概要

Kristina Kashtanova (カシュタノバ)氏は、2022年9月15日に、『Zarya of the Dawn (暁のZarya)』と題した漫画作品について、視覚著作物として著作権登録を出願した。著作権局は、審査の後、同作品を登録した。しかしながら、登録後に、カシュタノバ氏がAIを使用して制作を行った旨をSNSで発信などしていることを知った著作権局は、カシュタノバ氏に対して、その制作状況を補足説明するように求めた。¶016

(2)著作権局決定の概要

カシュタノバ氏からの補足説明を受けた著作権局は、次のような決定を下した12)U.S. Copyright Office, Cancellation Decision re: Zarya of the Dawn (Vau001480196) (Feb. 21, 2023). ¶017

漫画作品を構成する、テキストおよびテキストと画像の選択・配置については、いずれもカシュタノバ氏が、AIの助けを借りずに自力で創作しており、かつ、最低限度以上の創造性が発揮されているので、著作物として保護されるとした。¶018

一方、個々の画像については、人間による著作行為が欠け、著作物には当たらないとした。著作権局は、まず、楽園への新しい入り口事件決定と同様に、人間による著作行為が存在しない場合、著作物とは認められないとの基本的立場を示した。そして、画像生成AI(本件の場合Midjourney)を用いた画像生成プロセス——具体的には、操作者が、作画命令であるプロンプトを入力して出力された複数枚の画像から1枚を選び、さらに追加のプロンプトを入力することを繰り返して最終的な画像を得る——を概観した上で、「このプロセスは、操作者によって制御されているわけではない。なぜなら、Midjourneyがどのような画像を生み出すかを、操作者は予測することができないからだ」と指摘した。¶019

著作権局は、写真の著作物性を肯定したBurrow-Giles事件最高裁判決が、写真の「著作物の『著作者』とは、『実際に写真を形作った者』であり、『〔筆者注:当該写真の〕起源となる者または黒幕』として行動する者を指す」と説示したことを指摘し、プロンプトを入力する操作者は、画像を実際に形作っていないし、操作者がプロンプトで指示した内容と出力された画像の間には、「相当な距離が存在し、それ故に、操作者は、生成された画像に対する制御を欠き、『黒幕』とは言えない」と述べた。¶020

また、具体的な出力が予想できないことを理由に、「Midjourneyとアーティストが使用する他のツールとは、著作権法上は別物である」と指摘する。なぜなら、「アーティストが編集ツールやその他の支援ツールを使用する場合、アーティストは、どの視覚的要素を修正するかを選択し、どのツールを使ってどのような変更を加えるかを選び、出来上がり画像を制御するための特定の段階を踏むので、最終画像は、アーティスト『自身に由来する内的概念であって、アーティストが視覚的形状を与えたもの』といえる」が、Midjourneyの操作者は、生成される画像に対して、これらに匹敵するような制御を行うことができていないからであるとした。¶021

著作権局は、「特定のプロンプトが特定の視覚的出力を生成することは保証されない。プロンプトの機能は、命令よりも提案に近いと言え、画像作成のためにアーティストを雇った客が、求める絵について一般的な指示をする状況と似ている」。その場合に、著作者となるのは、一般的な指示をした者ではなくて、「指示を受けて、一番良い表現方法を決めたアーティストである」とも指摘した。さらに、操作者が求める画像を生み出すまでに、何百回も試行錯誤し、多大な時間と労力を費やすことになるのが事実としても、「額の汗」を理由に著作者になることはない、とも述べている。¶022

(3)小括

本稿では、楽園への新しい入り口事件判決と暁のZarya事件決定について紹介したが、著作権局の他の決定13)U.S. Copyright Office, Re: Second Request for Reconsideration for Refusal to Register Théâtre D’opéra Spatial (SR \# 1-11743923581; Correspondence ID: 1-5T5320R)(September 5, 2023).や、AI生成表現の著作物性に関するガイダンス14)U.S. Copyright Office, Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence (March l6, 2023). 詳しくは、奥邨④・後掲注22)36頁~38頁参照。でも、先の2件と同様の考え方が述べられている。すなわち、AI生成表現が著作物として保護されるためには、人間による著作行為が必要であるから、それに欠けるものは、著作物として保護されない。そして、人間による著作行為が存在すると言えるのは、人間が表現作成過程の「黒幕」に当たると評価できる場合である。¶023

では、どのような場合が「黒幕」に当たるのか。この点、暁のZarya事件決定が、「黒幕」該当性を否定する上で、①入力されたプロンプトと出力された画像の間には相当の距離があってプロンプト入力者は出力される画像を予測できないこと、および、②従来のツールを使用する場合とは違いが存在すること、の2点をポイントとしていた点を踏まえると、「黒幕」に当たるためには、最終的に作成された表現とその作成過程の全般を人間が統御していること、しかもその統御は強いものであることが求められていると言えよう。¶024

なお、最終的な表現を得るまでに多数回の試行錯誤を経たこと自体は、「額に汗」にすぎないとされ、著作行為性(ひいては著作物性)の判断根拠となっていないことも注目すべきだろう。¶025

Ⅲ 中国の裁判例

この事件(以下、春風が優しさを運ぶ事件)を取り上げたのは、暁のZarya事件と同タイプの画像生成AI——暁のZarya事件の場合はMidjourneyであり、この事件の場合はStable Diffusionであるので、厳密には使用した画像生成AIが異なるが、いずれも画像生成に、いわゆる拡散モデルと呼ばれる技術を採用しており、プロンプトを入力して画像を生成するという点で共通する——で生成された画像について、米国とは異なり、著作物性を認めたこと、および、入力されたプロンプトの全文が公開されていることによる15)筆者の不勉強から、本判決の考え方が、中国におけるいわば通説的なものと言えるのかは不明であるため、あくまでも米国の現在の考え方と対照をなすものの例として紹介するにとどまる。この点ご容赦願いたい。なお、筆者は2023年12月11日に、早稲田大学知的財産法制研究所の主催で開催された日中シンポジウム「AIと著作権──日中の最新動向と課題」に登壇の機会を得たが、その際、同じく登壇された香港城市大学の何天翔先生に、本判決についてのコメントを求めたところ、まだ、詳しく分析されていないとの留保付きながら、必ずしも、中国で広く支持される考え方といえるかは議論がある旨のご指摘があったと理解している。¶026

1 事案の概要

原告は、Stabel Diffusionを使って作成した画像(漢服風の白い衣装を着た、三つ編み風ヘアスタイルの若い女性の上半身をポートレート写真風に描写したもの。以下、本件画像)に「春風が優しさを運ぶ」とのタイトルをつけてSNS小紅書の自分のアカウントに投稿した。投稿に際しては、一種のハッシュタグとして「#AI \#【話題】 \#AIイラスト \#AI絵画 \#ポートレート \#少女 \#写真 \#春 \#美人」を付加した。¶027

被告は、個人向けメディアプラットフォーム百家号に「三月の恋、桃の花に」と題する記事を投稿し、その添付画像として本件画像を掲載した。¶028

被告による本件画像(原告の署名入り透かしが削除されていた)の無断投稿を知った原告は、被告を、情報ネットワーク送信権および氏名表示権の侵害で訴えた。¶029

2 判決の概要16)北京互联网法院(2023)京0491民初11279号。なお、ニュースによれば、本件は控訴されているとのことである。17)筆者は中国語を全く解しないため、インターネットで入手した判決文を、AIに翻訳させて内容を概ね把握した。もっとも、筆者自身には、翻訳結果が正しいかどうかを評価する能力がないため、翻訳エンジンの違うDeepLとChatGPT-4にそれぞれ和訳させ(和訳が分かりづらいところは、部分的に英訳させ)、その結果を突き合わせる作業を一応行った。ただ、それでも翻訳文として様々な過誤が存在することが想定されるため、ここでは、判決文の翻訳をそのまま記載することは避け、それを筆者なりに要約したものを示すこととした。この点、存在しうる誤謬・過誤を含めて、予めご容赦いただきたい。

中国著作権法は、著作物を「文学的、美術的、および学術の分野における独創性を有し、かつ、一定の形式をもって表現することができる知的創造の成果」18)以降も含めて、引用した中国著作権法の和訳は、増山周訳「外国著作権法──中華人民共和国編」著作権情報センターウェブサイトと定義する。判決は、この定義を、①文学的、美術的または学術の分野であること、②独創的であること、③一定の表現形式を有すること、④知的創造の成果であること、の4つの要件に分解する。そして、まず、見た目が通常の写真と遜色のない本件画像が、①と③を満たすことは明らかとする。¶030

次に、判決は、④の「知的創造の成果」とは知的活動の成果を意味し、故に、著作物には人間の知的入力が反映されていなければならないと指摘する。その上で、Stable Diffusionは、人間が入力したテキストに従って線を引いたり色を塗ったりして画像を生成することで、人間の創造性やアイデアを具体的な形で示すことが可能であるとする。そして、本件画像の構想から最終的な画像の選択までの全過程で、原告は、人物をどう演出するかを考え、プロンプトの選択やパラメータの設定を行い、出力結果を踏まえてプロンプトの追加・修正やパラメータの調整を繰り返し、最終的に求める画像を選択するなどの知的入力を行っており、本件画像は、これら原告の知的入力を反映したものであるから、「知的創造の成果」要件を満足するとした。¶031

②の独創性要件について判決は、独創性とは、著作者が独自に作成したものであり、著作者の個性的な表現が反映されていることを要する、と指摘する。本件画像の具体的な線や色を、原告自身が描いたわけでもなければ、それらの具体的な描き方を原告がStabel Diffusionに逐一指示したわけでもないことから、本件画像の線や色は、Stable Diffusionが描いたものであり、その点では従来の絵筆やお絵かきソフトを用いて絵を描くのとは大きく異なる。しかし、原告は、プロンプトによって、人物やその見せ方などの本件画像の構成要素をデザインし、パラメータを通じてレイアウトや構図を設定したが、これらは原告の選択と配列を反映している。また、出力結果に応じて、プロンプトやパラメータの調整・修正を重ねて、最終的に本件画像を得たが、調整・修正の過程にも、原告の美的選択や個性的判断が反映されている。故に、本件画像は原告が独自に創作したものであり、原告の個性的な表現を反映したものである19)判決は、作品が一定の順序・方式・構造に従って生成される場合、誰が行っても同じ結果を得ることになるため、「機械的な知的創造の成果」であって独創性があるとは言えないとした上で、本件の場合、別人が、異なるプロンプト・パラメータを入力などすれば、それぞれ異なる画像を作成可能であることを指摘して、本件画像は「機械的な知的創造の成果」ではないと説く。¶032

以上、著作物の定義を構成する4つの要件が満足されることから、判決は、本件画像は著作物であるとした。その上で、本件画像の著作者および著作権者が誰かの検討に進む。判決は、中国著作権法は「著作物を創作した自然人を著作者」(11条2項)とし、「著作権は著作者に帰属」(同条1項)すると定めているので、自然人でないAIモデルは著作者になり得ず、著作権は帰属しないとする。また、AIモデルの設計者については、本件画像を生成する意図を有さず、モデル設計時に将来生成される画像を定めているわけでもないこと、本件画像の生成過程に一切参加していないためツールの作成者にすぎないこと、その知的入力は、AIモデルの設計には反映されても、本件画像に反映されていないことなどを指摘して、本件画像の著作者にはなり得ないとした。その上で、本件画像は、原告の知的入力に基づいて直接生成され、そこには、原告の個性に基づく表現が反映されているので、原告こそが本件画像の著作者であって著作権を有すると結論づけた。¶033

なお、判決は、信義誠実の原則と公衆の知る権利の保障の観点から、AI技術が用いられたことを示すべきと説く。そして、本件の場合は、「#AIイラスト」というハッシュタグがその役割を果たしているとした。¶034

3 小括

一見同様の作成過程を経たと思われ20)春風が優しさを運ぶ事件判決には、画像生成過程および具体的なプロンプトやパラメータが詳細に記載されているが、米国の場合、現在公開されている決定書など見る限り、プロンプトがどういうものだったのかの具体的なところは分からない。、また、画像としての完成度にも(ジャンルの違いなどを考慮する限り)決定的な違いはないように思われるのに、米国と中国とで、生成AIによって生成された画像の著作物性について、真逆の判断が示された。両者を分けたものは何だったのか。¶035

まず思いつくのは、AI生成表現の著作物性に関する基本的な考え方について、米国のそれと中国(正確には、春風が優しさを運ぶ事件判決)のそれとが、全く異なっていたのではないかという点であろう。しかし、春風が優しさを運ぶ事件判決も「著作物には人間の知的入力が反映されていなければならない」として、人間の知的入力が反映されていないものは著作物に当たらないとするため、その限りでは米国と大きな乖離はない。問題は、どの程度の知的入力で是とするのか(米国風に言えば、どの程度の関与で「黒幕」と認めるのか)という点に差があったということのように思われる。そしてその差は、現在の(画像)生成AIで一般的な、プロンプトやパラメータを入力・設定して表現を生成し、それを踏まえてプロンプトなどを修正・調整して再度表現を生成し、を繰り返すプロセスを、いかに評価するかという点で顕著に表れたということなのだろう21)せっかく詳しくプロンプトが公開されているものの、筆者はその内容を理解できないので、画像生成AIの専門家と言える方に分析を依頼した。具体的には、デジタルハリウッド大学大学院の新清士教授(株式会社AI Frog Interactive 代表取締役CEO)とスタジオ真榊の賢木イオ氏に、プロンプトを分析して頂いた。ここに記して謝意を表する。
新教授からは、複雑なテクニックを使っているとは言えないこと、ほとんどのプロンプトが(ポジティブプロンプトもネガティブプロンプトも)ありふれたものでネットなどで公開されているものを参考にしたように思われること、例えばポジティブプロンプト中の描写対象を指定している部分「in locations, japan idol, highly detailed symmetrical attractive face, angular simmetrical face, perfect skin, skin pores, dreamy black eyes, reddish-brown plaits hairs, uniform, long legs, thighhighs[sic]」もありふれたものであると言えること、などのコメントを頂いた(新教授の分析は、新清士「AIイラストは“著作物”!?中国で画像生成AIブームが大爆発したわけ」ASCII×AIにも掲載されている)。
また、賢木氏からは、本件画像が生成された時点ではこのような長いプロンプトを使うのは一般的であったこと(現在では技術が進歩し必ずしもそうではなくなった)、プロンプトの多くは、クオリティを上げるための文言や修飾語であり描画対象についての言及した部分(新教授のコメント中に掲げた部分)は少ないこと、しかも前記プロンプト中の最後の部分(long legs, thighhighs)が無視されていること、ポジティブプロンプトもネガティブプロンプトもありふれたものであるように思われること、特にネガティブプロンプト中の同じワードの反復は(強調の意味はあるにしても)他人のプロンプトを吟味せず参考にした可能性を示唆すること、プロンプトと出力画像を比較するに出力画像をコントロールできているとは言いがたく、偶然に委ねている部分が多いように思われること、通常の写真撮影の場合のカメラマンは目的の写真を意図して場面設定、構図、シャッターチャンスなど様々なコントロールをしているが、そのような状況にあるとはいえないこと、操作者の個性が表れているのは多数の選択肢から選び出したところではないかと思われること、などのコメントを頂いた(より詳細かつ緻密な分析も頂いているが、字数の関係から、その一部を筆者なりに要約して記載した)。
いずれのコメントも、出力結果に対する十分なコントロールができていないことを示唆していると考える。その意味では、もし米国著作権局が本件画像の著作物性について判断するとすれば、操作者がプロンプトで指示した内容と出力された画像の間には、「相当な距離が存在し、それ故に、操作者は、生成された画像に対する制御を欠き、『黒幕』とは言えない」として著作物性を否定したのではないかと、筆者としては考える。
¶036

このような差が生じる背景はどこにあるのだろうか。この点に関連すると思われる興味深い説示が、春風が優しさを運ぶ事件判決に見られるので、以下にその概要を紹介したい。¶037

生成AI技術によって、人間がすべきだった作業を機械に委ねることが可能となり、我々の創作方法は変わりつつある。しかし、これは技術の進歩に伴ってこれまでも生じてきた事態である。例えば、物のイメージを記録するためには、かつては絵画によるしかなく、高度な描画技能が求められたが、カメラの登場で状況は変わった。最近のスマートフォンのカメラは高性能で容易に写真を撮影できるが、それでも、撮影者の独創的な知的入力を反映している限り写真著作物であり、著作権法によって保護される。生成AIの登場前は、絵画を入手するには、時間と労力を費やして自ら描画技能を習得するか、他人に絵画の作成を委託する必要があった。その場合、受託者は委託者の求めに応じて線を引き、色を塗り、作品を完成させる。一見すると、人間が生成AIを使って絵を生成する場合と似ているが、決定的な差がある。それは、受託者は自らの意思を持ち、自らの選択や判断を絵画に取り入れる点であり、それ故に作品を描いた受託者が著作者となる。一方、人間がAIモデルを使って絵を生成する場合、道具を使うのはやはり人間であり創作プロセスに知的入力を行うのは人間である。技術が発展し、道具が賢くなればなるほど、人間による入力は減少するが、だからと言って、著作権法制によって創作を奨励することを妨げるものではない。創作の奨励は、著作権法制の中核的な目的である。著作権法を正しく適用し、適切な法的手段を用いて、より多くの人々による最新のツールを使った創作を奨励することが、著作物の創作とAI技術の発展にとって有益である。このような背景と技術的現実を踏まえれば、AIによって生成された画像が、人間の独創的な知的入力を反映している限り、著作物として保護されるべきである。

注:当該事件の判決文を筆者が要約したもの。

¶038

端的に言うと、春風が優しさを運ぶ事件判決は、人間がこれまで表現の創作に用いてきた様々な道具の延長上に生成AIを位置づける一方、米国は従来の道具とは異質の存在として生成AIを位置づける(例えば、暁のZarya事件決定では、具体的な出力が予想できないことを理由に、「Midjourneyとアーティストが使用する他のツールとは、著作権法上、別物である」と指摘している)。この違いが、人間による入力や関与を求める程度の差に表れているように思われる。¶039

Ⅳ 日本の場合22)この問題について論じる主なものとして、『新たな情報財検討委員会 報告書──データ・人工知能(AI)の利活用促進による産業競争力強化の基盤となる知財システムの構築に向けて』(平成29年3月。知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 新たな情報財検討委員会)、奥邨弘司「人工知能が生み出したコンテンツと著作権──著作物性を中心に」パテント70巻2号(2017年)(以下、奥邨①)10頁以降、宮下佳之「情報の集積・処理に伴う著作権法上の諸問題と実務対策──AIとプラットフォーマー契約論を中心として」コピライト672号(2017年)2頁以降、齋藤浩貴「著作権法における『創作』の現在と将来」コピライト674号(2017年)2頁以降、奥邨弘司「人工知能生成コンテンツは著作権で保護されるか」電子情報通信学会誌102巻3号(2019年)(以下、奥邨②)253頁以降、上野達弘「人工知能と機械学習をめぐる著作権法上の課題——日本とヨーロッパにおける近時の動向」法時91巻8号(2019年)33頁以降、横山久芳「AIに関する著作権法・特許法上の問題」法時91巻8号(2019年)50頁、奥邨弘司「技術革新と著作権法制のメビウスの輪(∞)」コピライト702号(2019年)(以下、奥邨③)2頁以降、愛知靖之「AI生成物・機械学習と著作権法」パテント73巻8号(2020年)131頁以降、奥邨弘司「生成AIと著作権に関する米国の動き——AI生成表現の著作物性に関する著作権局の考え方と生成AIに関する訴訟の概要」コピライト747号(2023年)(以下、奥邨④)31頁以降、平嶋竜太「Generative AIによる生成物をめぐる知的財産法の課題」Law & Technology 別冊9号(2023年)61頁以降、出井甫「AI生成機能の動向と著作権法上の課題への対策」コピライト741号(2023年)18頁以降、濱野敏彦「大規模言語モデル・画像生成AIと著作権法──ChatGPT、DALL・E2を中心に」コピライト749号(2023年)21頁以降、奥邨弘司「AIによる生成表現の『著作物性』」ビジネス法務2023年11月号(以下、奥邨⑤)36頁以降および同「AIと著作権──AI生成物の著作物性」現代の図書館61巻2号(2023年)(以下、奥邨⑥)94頁以降などがある。

この問題について、筆者は、これまで何度か考察結果を公にする機会を得た。そこで、以下では、まず、それらの考察結果を再整理する形で23)奥邨①~⑥・前掲注22)を再整理したが、最も直近の奥邨⑥がベースとなる。(私見も含めて)我が国著作権法の解釈について述べた上で、先に紹介した米国および中国の判決などとの比較検討を行いたい。¶040

1 著作物の定義

我が国著作権法には、著作物の定義(「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」)規定(著作2条1項1号)があるので、AI生成表現が著作物に当たるか否かも、この定義に照らして判断する必要がある。¶041

本稿では、著作物の定義を、①思想または感情の表現であること、②創作的な表現であること、③文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する表現であること、の3つの要件に分解して検討することとしたい。¶042

ここで、AI生成表現であっても、画像や文章、楽曲、動画などの外形を有するものが、(AIではなく、従来どおり)人間が創作したそれらと同様に、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する表現であることは疑いようもないところであるから、第3要件を満足することに異論はないだろう24)例外は、AIが実用品のデザインを出力した場合である。この場合、いわゆる応用美術の著作物性の問題となるが、これは、第3要件該当性の問題である。もっとも、AI生成表現に限った問題ではない。差し当たり、奥邨弘司「判批」判評769号(判時2545号)(2023年)118頁以降参照。。では、第1要件、第2要件はどう考えるべきだろうか。¶043

2 第1要件

第1要件においては、「思想または感情」が表現されていることと、思想や感情そのものではなくてそれが「表現」されていること、の2点が求められるが、AIが生成した画像や文章、楽曲が「表現」であることは明らかだから、問題となるのは前者である。¶044

一般に、著作物の定義規定に言う「思想または感情」とは、人間の精神活動全般を指すものと考えられている25)小泉直樹ほか『条解 著作権法』(弘文堂、2023年)10頁[横山久芳]参照。。とすると、例えば、ボタンを押しただけで、その後AIが自律的に生成した画像などには、「思想または感情」が含まれないことになり、第1要件を満足しないから、著作物ではないことになる26)上野・前掲注22)35頁、横山・前掲注22)50頁、愛知・前掲注22) 132頁および平嶋・前掲注22)65頁~66頁参照。。一方で、AIが生成した表現ではあっても、人間がAIを道具の一種として使用して生み出した表現(以下、AI道具使用表現)の場合は、ペンやワープロ、カメラなどのような他の道具を使用して生み出された表現と同様であって、通常、そこには思想または感情が含まれており、第1要件を満足することになる。¶045

ところで、この第1要件との関係で、1つ悩ましい問題がある。それは、AIが自律的に生成した表現(以下、AI自律生成表現)と一口に言っても、先述のようにボタンを押しただけで自律的に生成されるものだけではなくて、短い命令文章(いわゆるプロンプト。例として「失恋した若者を励ます朝焼けの富士山」)の入力に応じて、自律的に生成されるものが存在することである。後者の場合、短いプロンプトの中には、かなり抽象的で、かつ、わずかではあるものの人間の思想または感情が含まれているから、第1要件は満足されるということにはならないだろうか。¶046