信販会社X(原告・被控訴人)は、Xの仙台支店支配人A作成名義の訴状を提出し、Y(被告・控訴人)に対する求償金請求訴訟を提起した。第一審の請求認容判決に対して、Yが控訴し、Aは支配人と登記されているものの包括的代理権を与えられていないから、Aの訴訟行為は無効であり、訴えは却下されるべきであると主張した。
原判決取消し、訴え却下。「商法37条〔現会社10条〕の支配人は、営業主の営業上の行為について包括的な代理権を有する者……であるところ、……AはX仙台支店の支配人として登記されているものの、その職務内容は……営業の全般に亘るものでないばかりか、AはX東北地区本部に所属する従業員であって、X仙台支店の従業員ではないのであるから、同支店の支配人といえないことは明白である」。「Xは商法38条〔現会社11条〕の規定が支配人に裁判上の代理権を付与していることを奇貨として、訴訟によって債権の回収を図る案件の多い自己の営業に関し、弁護士法72条の趣旨に違反するとの非難をかわし、民事訴訟法79条1項〔現54条1項〕の禁止を潜脱し、その従業員をして訴訟活動をさせる目的をもって、実質的に支配人でない従業員を支配人として選任した旨の登記申請をして、その旨の登記を受け、もって、当該従業員が支配人であるかのような外観を作出したうえ、これらの者をして、自己を当事者とする訴訟につき訴訟代理人として訴訟行為を追行させているものと判断せざるを得ない」から、「本件訴は、支配人でない者が支配人を僭称して提起した訴として、無効」である。かつ、「X自身にはなんらこれら〔訴訟能力等〕の瑕疵がなく、ただ、Xが訴訟代理権を付与した相手方に適正な訴訟代理人たる資格がなかっただけであるから、前記法条〔現民訴59条・34条2項〕の適用はなく、Xは前記Aのした無効な訴の提起及びその後の訴訟行為を追認することができない」。