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はじめに

選定した裁判例は、最高裁判例に関しては、令和2年11月1日から令和3年10月31日までに言い渡されたものを主たる対象とした。下級審判例に関しては、判時2456号(2020年11月11日号)から判時2493号(2021年11月1日号)まで、判タ1477号(2020年12月号)から1488号(2021年11月号)までに掲載されたものを中心に選定した。¶001

Ⅰ 行政作用法

1 行政法令の解釈

⑴ 被爆者

被爆者に対する援護として、原爆投下時に第一種健康診断特例区域に所在した者には(無料の健康診断受診を可能にする)健康診断受診者証が交付され、健康診断の結果、通達所定の障害が認定された場合、厚生省公衆衛生局長通達(いわゆる402号通達)により、被爆者援護法1条3号所定の要件(「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」)該当性が肯定され、被爆者健康手帳が交付されるなど認定範囲の拡張が図られてきた。しかし、原爆投下後に上記区域外において、いわゆる「黒い雨」に遭った者は、同号にいう「被爆者」該当性を否定された。これらの者が1条3号該当を主張し、広島市、広島県および参加行政庁である厚生労働大臣に対し、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消しおよび当該手帳交付の義務付けを求め提訴した。広島地判令和2・7・29(判時2488=2489号16頁、行政法1)は、「黒い雨」体験者が上記障害を伴う疾病に罹患している場合について、同号の被爆者該当性を肯定した(広島高判令和3・7・14賃社1793=1794号38頁は控訴を棄却し、その後、国は上告を断念した)。被爆者健康手帳の交付要件である1条3号の解釈に関して、上記通達が上記区域における居住と障害認定をもって要件該当を導いた判断枠組みを前提としながら、本判決は、居住要件によって被爆者該当性を判断する被爆者援護行政の不合理を克服すべく、黒い雨の体験と障害認定をもって要件該当性を認める法解釈を打ち出し、同法における「被爆者」の範囲について行政実務の見直しを要請した。なお、本判決は一般疾病医療費受給権と葬祭料受給権について一身専属性を否定し、本件原告の相続人に訴訟承継を認めている。¶002