Ⅰ 問題の所在
第2次世界大戦後の多角的自由貿易体制の創設をもたらした要因のひとつが、自由で無差別な貿易秩序は国際の平和と安全の実現に資するとの考えにあったことは、広く知られているとおりである1)。もっとも、戦後に締結されたGATT(関税及び貿易に関する一般協定)にソ連をはじめとする多くの社会主義国は参加せず、GATTが実際に果たし、またその発展の原動力となったのは、自由主義陣営の結束と途上国の取り込みを通じた拡大という目標である2)。¶001
その意味で、上記の構想の真価が問われることとなったのは、GATTがWTO(世界貿易機関)へと発展的解消を遂げたのち、中国やロシアがWTOに加入して3)、その参加国が世界大に拡大した2000年代以降のことであったと言えるが、現在我々は、第2次世界大戦以前に逆戻りしたかのような大国によるあからさまな武力の行使を目の当たりにしている。こうした現実は、経済と安全保障の正の連関というよりは、両者の階層性を改めて想起させるものである。¶002