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Ⅰ はじめに
最高裁は、令和5年3月24日、ベトナム人技能実習生である被告人が、死産した双子のえい児の死体を段ボール箱に入れて自室にあった棚の上に置いて放置した行為について、死体遺棄罪(刑190条。以下「本罪」とする)の成立を認めた控訴審判決1)および第1審判決2)を破棄し、無罪を言い渡した(最判令和5・3・24裁時1812号3頁。以下「本判決」とする)。本事件は、技能実習生が妊娠に基づいて不当な扱いを受けることへの批判的な視点から、あるいは、孤立出産をめぐり女性が置かれた厳しい立場を擁護しようとする視点から大きな関心を集めるものとなった3)。ただし、本判決は、背景にあるそうした社会的状況に言及することなく、被告人が行った行為の内容に基づいて死体の「遺棄」該当性を否定したものである。¶001