事実の概要
火力発電システム等に係る施設等の開発等に関する業務等を目的とするA株式会社(以下、「本件会社」という)は、タイ王国で火力発電所建設工事を遂行していたところ、平成27年2月2日、同工事現場付近に建設された仮桟橋に接岸させる予定のはしけ(港湾内等で貨物等を運ぶ小型船)の総トン数が仮桟橋の建設許可条件を超えていたことから、タイ運輸省港湾局支局長Bから許可条件違反となる旨指摘され、はしけを接岸するために地元関係者の分も含めて現金2000万タイバーツを支払えと要求された。この事実は、本件会社の執行役員兼調達総括部長Cとその部下である調達総括部ロジスティクス部長Dおよびその部下であるEに報告され、Eがタイに出張して事態の収拾に当たることが決定された。Eは、現地において、前記要求に応じて金を支払う以外の代替手段を見いだせないことをDに報告し、Dは、要求どおり金を支払うしかないことなどをCに伝え、Cも同様の考えに至った。Cは、同月5日、本件に関する会議を同月10日に行うとして、本件会社の取締役常務執行役員兼エンジニアリング本部長であった被告人の日程を確保するとともに、Dに対し、被告人の判断を仰ぐまで現金の支払に向けた手続を停止するよう指示した。DはEにその旨指示し、手続は一旦停止した。Dは、同月9日、Eから、建設許可を取り直すには4か月以上かかるとの報告を受け、翌10日、Cに対し、その旨報告した(工事が遅延した場合、本件会社が支払うことになる遅延損害金は、1日当たりおよそ4000万円と見込まれていた)。CとDは、同月10日、前記要求に従ってBらに対し現金2000万タイバーツを供与すること(以下、「本件供与」という)に関する資料を携え、本件会社内の被告人用会議室において、被告人と会議を行った。また、Cは、この会議の後、被告人との再度の会議を同月13日に設定し、同日、CとDは、上記会議室において、被告人と会議を行った(以下、この2回の会議を「本件会議」という)。本件会議において、被告人は、本件供与について、仕方がないという趣旨の発言をした。Dは、同月10日の会議の後、Eに対し、被告人の了承が得られたとして本件供与に向けた手続の再開を指示し、現金2000万タイバーツが用意された。同月14日、上記現金の運搬が始まり、同月17日、Bらに対し、上記現金が供与された。なお、本件会社は、多数の本部と部で構成されているところ、各部は組織上並列しており、本部長または部長の直接の上位者は同社代表取締役社長しかいないという組織構造となっている。¶001