Ⅰ はじめに

近年、ジェンダー・ダイバーシティ推進の波は、世界の上場企業の取締役会にも及んでいる。わが国においても、令和2年12月25日に閣議決定された内閣府第5次男女共同参画基本計画では「企業における女性の参画拡大」の項目に、金融庁が「企業のガバナンスにおけるジェンダー平等の確保の重要性に鑑み、有価証券報告書等における開示の在り方を含め、コーポレートガバナンスの改善に向けてジェンダーの視点も踏まえた検討を行う」旨が記載されており1)、取締役会における女性役員登用の重要性は認識されつつある。これを受けて上場企業に適用されるわが国のコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGC」という)2)でも、2021年の改訂により「補充原則2-4① 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである」という規定が追加された。また、女性活躍推進法により2022年4月から、常時雇用する労働者数が101人以上の事業主には、「一般事業主行動計画の策定・公表」に加え、「自社の女性活躍に関する情報の公表」も義務化され、このなかには「役員に占める⼥性の割合」「管理職に占める⼥性労働者の割合」の記載も含まれている。さらに金融庁のディスクロージャー・ワーキンググループの報告書(2022年6月13日公表)によれば、次の有価証券報告書の開示項目として、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差を記載する方向性が決まった3)。このように、わが国の取締役会におけるジェンダー・ダイバーシティの取組みは着実に前進しつつあるようにみえるが、世界的にみれば、わが国の企業役員に占める女性比率は、依然として著しく低い。OECDのデータによれば、2021年時点で、フランス(45.3%)、ノルウェー(41.5%)、英国(37.8%)、ドイツ(36.0%)、米国(29.7%)の数値に比べて、日本は12.6%に留まる4)。そこで、本稿では、まずは取締役会のジェンダー・ダイバーシティに先進的な取組みを続けるEU加盟国による3つのアプローチを紹介し、さらに英米の進展状況にも触れながら、そもそもなぜ取締役会においてジェンダー・ダイバーシティを考慮する必要があるのか、その根拠について検討したうえで、わが国の取締役会におけるジェンダー・ダイバーシティ改革に向けた示唆を得たい。