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それからデッド・コピー規制については、3年の保護期間が短すぎるのではないかという問題があります。たとえば販売が軌道に乗りヒット商品となり、それに連れて模倣品が出回りだすまで1年ぐらい経過する。そこから警告や交渉等を経ていよいよ埒が明かないということで訴訟提起するまでに半年経過、裁判に1年かかってようやく判決を得たときにはもう半年しか保護期間が残っていないとか、控訴審に移行したらもう3年が過ぎてしまい、もはや差止めを得ることは叶わなくなったなどということがそれほどめずらしいストーリーではなかったりするかもしれません。でも他方で、わりと模倣で発展していくような側面もある業界としては、創作的な価値も問わないデッド・コピーの保護については3年でも十分で、それ以上のものを求めるのだったら意匠をとっておいてくださいという政策判断にも合理性があるように思います。非常に難しい問題ですが、ただIP Channelingという観点から見ると、1つの鍵は、それなりにヒットした商品について、不競法2条1項1号の周知性の保護が、どの時点から発生するのか、ということです。それが通例、3年で足りるのだったら特に問題はないのですが、足りていないのだったら、IP Channelingから見ると、そこに間隙があると評価されるわけです。もっとも、IP Channelingは1つの観点でしかなく、イノベーションの促進による産業の発展という大儀に鑑みると、模倣をある程度許容したほうがよく、よほどヒットした商品でもない限り、間隙やむなしというようにハードルを高くする政策判断もありうるわけです。そのような次第で、最終的な結論はどうなるかはわからないのですが、しかし、そうはいっても、不競法2条1項3号の保護期間の長短を決定するに際しては、つなぎの視点、2条1項1号との関係といった視点も必要になってくるということは言えるでしょう。¶039

その2条1項1号の周知表示の保護に関しては、裁判例は、文言上、商品の形態が同号によって保護されるためには、周知性とは別個に商品等表示該当性が問題となるとした上で、その商品等表示該当性の要件として、条文の文言にないにもかかわらず、特別顕著性と周知性と2つ要求する。しかし、商標法のほうで、商品の形態を立体商標として登録しようとする場合には、全国的に有名になりさえすれば、独特の形状をとっていなくても保護されるわけです。そうだとすると、IP Channelingという観点の下で制度間比較を視野に入れると、全国的に半ば永続的に保護される立体商標の登録ですら要求されないような要件を、より簡易な保護であるはずの周知表示の保護に課すというのは、バランスを欠いているように思えてきます。ただ、裁判例が実際に本当にそのような要件を課しているかどうかは、レイシオデシデンダイとの関係で見ていかなければいけないのですけれども、少なくとも文言上そのように言うわけで、それは余分な主張をさせていませんかという観点からの議論も必要だと思います。¶040

立体商標の登録に関しては、需要者が商品の形状と認識しうる場合には、商標法3条1項3号に該当するというのが多数派の理解です。しかし、やはりIP Channelingという観点からは、登録意匠制度により規律すべき領域を立体商標制度が撹乱してはいけないから、こういう要件を吟味するのだ、なので、需要者が認識可能ではなくても、商品の機能に関係しているというのであれば、同号に該当してもよい、あとは証明の問題ではないのかという立場もあるわけです。これは、ぱっと見ると機能に関係していないように見えるのだけれども、実は機能に関係していましたという例外的な形状がないわけではないので、そのときには、いきなり登録を認めるのか、それとも全国的に有名にする必要があるのかということで、そういう商品については大問題になってくるということです。¶041

それから、商標法3条2項で登録が認められる要件に関しては、全国的に著名などと言われることがあるのだけれども、IP Channelingという観点からいくと、ものすごく有名でなくても、周知性を満たす程度の認知度で、たとえば10%ぐらいで全国的にまあまあ知られているのだったら、どうせ不競法2条1項1号で全国的に他者の類似表示の使用行為を止めることができるわけです。そういう状態になっているのだったら、そうなっていますよということを登録の形ではっきり皆さんにお知らせする意味も込めて、立体商標を認めて差し支えないと考えることになります。¶042

6 本連載の意義

田村さて、ということで、ここに皆さんに集まっていただいた本連載の意義です。¶043

私は、ファッションIPローという分野に区切って勉強していくことにすごく意味があると思っています。そして、この分野は、他の分野にも増して、実務がどうなっているのか、業界の実情、業界がIP Channeling戦略をとっているときにそれを踏まえた上で、では、イノベーションを適度に保護して産業の発展を図るのだというときに、どういうChanneling政策をとるのかといった研究が必要ではないかと思うわけです。そうすると、ファッション業界の知財戦略の実態を確認する、実務的な課題はどこにあるのかを考える、現行法制度はどの程度それに対応しているのか、改善すべきところはあるのか。そういう、実務家と研究者がコラボレーションしていく意味がとてもあると思っています。¶044

IP Channelingの話ばかりしましたけれども、せっかくこうやって専門の方に集まっていただいているので、この機会を捉えて、IP Channelingにかかわらず、知財関係のファッション関係の問題も広く扱っていきたいと思っています。たとえば、IP Channelingという観点をとるかとらないかに限らず、非常に重要なこととして、ファッション業界では、模倣によりイノベーションが進むという側面が、他の分野にも増して強いということを勘案しながら、保護の要件・保護範囲を模索する必要がもちろんあるわけです15)参照、小島立「ファッションと法についての基礎的考察」高林龍ほか編集代表『現代知的財産法講座Ⅲ』(日本評論社、2012年)3頁。¶045

ここまで、まずは、研究者の立場から私がいろいろと申し上げ、私の目から見た、しかし先生方の論文などに教わりながら考えた、業界の話などもいたしました。この後のディスカッションでは、ファッションIPの分野でご活躍されている実務の先生方に、今のような課題・問題意識が実務の目から見るとどのように見えるのかということをお話しいただければと思います。¶046

(2)へ続く)¶047

[2022年8月24日ウェブ会議にて収録]¶048