事実
会社X(第1事件原告、第2事件被告)は、コンビニエンスストア「セブン-イレブン」のフランチャイザーである。¶001
自然人Y(第1事件被告、第2事件原告)は、Xと「本件基本契約」及び「本件付属契約」を締結したフライチャイジーとして、東大阪市で、平成24年から、Xが所有する建物においてセブン-イレブンA店を経営していた。¶002
Yの接客対応について、Xのもとに多数の苦情が寄せられていた。¶003
Yは、本件付属契約によって追加された本件基本契約23条2項(10頁〜11頁)1)特に断らない頁番号は、裁判所Webの判決PDFファイルの頁である。以下同じ。により24時間営業を義務付けられていたところ、平成31年2月1日から、「時短営業」(11頁で「午前1時から午前6時まで休止する営業」と定義)を始めた。¶004
Xは、本件基本契約の解除の意思表示をし、建物の引渡しと損害賠償を請求した(第1事件)。¶005
Yは、契約解除が独禁法の優越的地位濫用に該当するとする独禁法24条に基づく差止請求などを行った(第2事件)。¶006
判旨
Xの請求を認容し、Yの請求を棄却した。¶007
「本件催告解除に至った経緯は上記(1)〔92頁〜93頁〕で説示したとおりであり、本件催告解除は、Xがフランチャイザーの地位にあることを利用して、Yの時短営業を拒絶するためになされたものではなく、他に本件催告解除が優越的地位の濫用に当たることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、この点に関するYの主張は採用することができない。」(93頁)¶008
解説
Ⅰ 24時間営業義務と優越的地位濫用
コンビニエンスストアのフランチャイザーがフランチャイジーに対して24時間営業を求める行為が独禁法2条9項5号の優越的地位濫用に該当するか否かについて、以下のような状況がある。¶009
本件でもそうであったように、24時間営業は、当初の契約で義務付けられていることが多いようである。¶010
このため、従前の裁判例では、24時間営業義務が優越的地位濫用に該当するという主張は比較的容易に退けられていた(例えば、東京高判平成24・6・20裁判所Web〔平成24年(ネ)第722号〕)。なお、そこでは、契約締結段階では優越的地位が存在しなかったという裁判所の認識が前提となっていたものと推測される。¶011
そうしたところ、本判決78頁〜80頁でも認定されているように、公正取引委員会が、令和元年10月からの実態調査の実施、令和2年9月の実態調査報告書の公表を経て、令和3年4月28日の改正後のフランチャイズ・ガイドラインで、次のような行為は優越的地位濫用と認定され得るとしている。「本部が、加盟者に対し、契約期間中であっても両者で合意すれば契約時等に定めた営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず、24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由として営業時間の短縮を希望する加盟者に対し、正当な理由なく協議を一方的に拒絶し、協議しないまま、従前の営業時間を受け入れさせること」(公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」3(1)ア)。¶012
本件でのYの時短営業に対するXの対応が結果的にどのように評価されるかは別として、従前に比べれば、24時間営業をめぐる独禁法の状況は、予測可能性を減じて流動的であった。¶013
Ⅱ 契約解除の原因
1 本判決の判断
本判決は、判旨のとおり、契約解除の原因はYの時短営業にはないと認定した。そこで引用された「上記(1)」がさらに引用している箇所で本判決は、契約解除は時短営業に対する意趣返しであるとするYの主張を退け、「Xは、〔平成31年2月1日の段階では、Yが〕時短営業を継続すると本件基本契約を解除する意向を表明していたものの、その後、Yの時短営業を容認する方向に転じ」たと認定している(88頁〜89頁)。¶014
本判決は、Xが契約解除の方向に動いた原因はYの接客対応であり、これに平成31年以後のYのツイッターでの「本件各投稿」による信頼関係破壊が加わった、とした(80頁〜92頁)。¶015
2 同種の事例
契約解除の原因が、独禁法上の問題となり得る内容の義務に相手方が従わなかった点にあるのか、それとも他の点にあるのか、が争われることはよくある。¶016
多く見られるのは、メーカー等による契約解除の原因が、販売店が価格を維持せず値引き販売をしていることにあるのか、他のことにあるのか、が争われる事例である(最近の一例として、大阪地判平成30・3・23審決集64巻453頁〔平成28年(ワ)第229号〕)。¶017
価格維持を24時間営業に置き換えたのが、本件であるということになる。¶018