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Ⅰ. はじめに

令和4年2月25日、インサイダー取引責任に関する最高裁決定(裁判所Web〔令和3年(あ)第96号〕。以下、「令和4年最決」)が出された。これは、証券会社の従業員Y(被告人)が、自分の担当案件ではなかったものの、社内の特定の部署でしかアクセスできないファイルを閲覧等し、ある公開買付けの実施に関する事実(内部情報)を知って、公表前に、知人に利益を得させる目的で伝達したことが、金融商品取引法(以下、「法」)167条の2第2項に当たるか、が争われた事案である。具体的に、同項は、一定の者(公開買付者等関係者)が公開買付け等を実施する事実を「職務に関し」知って、他人に、公表前に買付け等をさせることで利益を得させる目的をもって伝達することを禁じているところ、Yが当該事実を「職務に関し知った」(法167条1項6号)と言えるかが、争点となった。¶001