Ⅰ はじめに
本稿は、アメリカにおいて裁判官とパブリックのあるべき関係性はどのように考えられ1)、その背後にはどのような裁判官の任務に関する認識があるのかを検討する。日本においては近年、最高裁判所裁判官の国民審査に対する関心が高まっており2)、この点に注目が集まっていると言える。アメリカではより直接的にこの点が問題になる場面がある。それが裁判官選挙である。本稿は、アメリカでは裁判官とパブリックの関係性に関して、権力分立の中であるべき裁判官像に起因する2つの見解の対立があること、そしてこの対立は裁判官が果たす任務の異なる側面に注目することで生じていること、を示す。本稿はこれらの点を、州裁判官選挙において候補者に一定の規制を課す州法の連邦憲法第1修正適合性が問題となった2つの連邦最高裁判決から明らかにする3)。前者では、争いのある法的・政治的問題に関する見解の表明を候補者に禁ずるミネソタ州の裁判官行動規範が、後者では、候補者個人による選挙資金への寄附の勧誘を禁ずるフロリダ州の裁判官行動規範が問題となった。いずれも5対4で、前者は違憲、後者は合憲という判決であった。¶001