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Ⅰ 人の承継をどう設計するか

Q1

M&Aにおいて、ステークホルダーとしての従業員をどのように捉えるべきでしょうか。また、M&Aによって、従業員にはどのような影響が生じ、会社側はどのようなことに注意する必要がありますか。

¶001

A1

対象会社の従業員は、M&Aによる影響を直接受ける存在であると同時に、M&A後の事業を現実に担う価値の源泉そのものであると捉えるべきです。

M&Aは企業価値を向上させるための取引であり、その中で労働条件や人員配置を見直す「合理化」が重要な要素となります。しかしこの合理化は、見方を変えれば従業員が享受してきた利益を削り、全体価値に振り向ける側面を持ちます。そのため、M&Aは従業員に対し雇用不安や労働条件変更といった重大な影響を不可避的に及ぼす可能性を孕んでいます。

そして、合理化が行き過ぎてしまえば、従業員からの強い反発を生み、モチベーション低下や、人材の流出等、深刻な価値毀損を引き起こしてしまうリスクがあります。会社側は、合理化による企業価値向上とそのリスクのバランスを慎重に見極める必要があります。従業員との利害関係の相反はM&Aで避けられない問題であることを理解した上で、適切なコミュニケーション・プランを設計し、誠実な対話を尽くすことが求められます。

¶002

1 ステークホルダーとしての従業員

M&Aは、企業活動の当事者である、株主、債権者、経営者及び取引先の全ての利害が如実に衝突し得る場面です。その中でも、買収対象となる対象会社の従業員は、M&Aによる影響を直接受ける存在であると同時に、M&A後の事業を現実に担う主体であることから、従業員は重要なステークホルダーとして位置付けられます。¶003

より分析的にいえば、M&Aは企業価値の向上を目的とする取引であり、より対象会社の潜在的な価値を現実化できる者が所有者として関与してシナジーを生み出し企業価値を高めるという側面を有するとともに、その過程では、人員配置、役割分担、処遇その他の労働条件の見直しを含む「合理化」が検討されることが多々あります。この合理化は、従業員の側から見れば、従前享受してきた利益や安定が見直されることを意味します。そうすると、従業員個人は、M&Aの影響を最も切実に受ける存在といえるでしょう。¶004

他方で、M&Aにおいて、クロージングにより株式や事業、契約関係の移転が完了したとしても、その後に顧客対応を継続し、ノウハウを維持し、組織を実際に運営していくのは従業員です。したがって、従業員は、企業活動における価値の源泉であるといえます。そのため、従業員対応を誤れば、法的紛争に至るかどうかにかかわらず、事業運営の停滞、人材流出、統合の失敗といった形で、M&A取引の目的達成そのものが危うくなり得ます。¶005