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Ⅰ はじめに

近年、実演家をめぐる契約実務は大きな転換点を迎えている。2010年代中頃から後半にかけて、著名な実演家(音楽アーティスト、俳優等)と芸能事務所の間で移籍などをめぐるトラブルが相次いで発生し、2019年7月には、アイドルグループSMAPの独立をめぐって公正取引委員会が元所属芸能事務所に注意を行ったことが報道され、世間を賑わせた。長年芸能界は、業界内の独自の慣行や暗黙のルールが支配する領域であったが、公正取引委員会は、芸能分野における取引慣行に対する関心を強め、2018年2月15日に「人材と競争政策に関する検討会報告書」を公表し、芸能人を含むフリーランスとの契約関係にも独占禁止法上の問題が生じ得ることが明示された。また、公正取引委員会は、実演家と芸能事務所等の取引に関する実態調査を実施し、2024年12月26日に「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」を、2025年9月30日に「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(以下「公取委指針」という)を、それぞれ公表した。¶001