Ⅰ はじめに――日本学術会議の法人化
令和7年(2025年)6月18日に公布された新たな日本学術会議法(令和7年法律第70号。以下「新法」という)により、現在、内閣府に特別の機関として置かれている日本学術会議(以下「学術会議」という)は、特殊法人として設置されることとなった1)。新法の公布とともに附則の一部が施行されており、令和8年(2026年)10月1日の完全な施行に向けて新会員の選考準備が進められている2)。法人化は、政府が設置した「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」の中間報告書(令和5年12月21日)と最終報告書(令和6年12月20日)を踏まえたものである。最終報告書では、法人化の理由として、政府方針と一致しない見解を含めて学術的・科学的助言を行うためには政府機関であることが矛盾をはらむこと、会員選考の自律性確保、人事・会計制度上の制約の緩和、財政基盤や事務局体制の強化、国の組織でなくなることによる具体的な制度的不利益が確認されていないこと等を指摘した上で、法人化によって独立性・自律性が従来以上に確保されうるとの認識が示されている。学術会議は科学者で構成される学問共同体であり、会員となるべき研究者の選考やその学術的な知見が政府の介入により歪められることは学問共同体の自律を保障する学問の自由を損なうため、研究者集団の組織改編は一般の行政組織のそれとは異なり、学問の自由の観点からの制約が及ぶと解されている3)。会員の学問的傾向や党派性を直接の理由とした介入は違憲となる可能性が高いが4)、会員の構成に関して、これまで以上によりよく学術界全体の意見を広く拾い上げるために、コ・オプテーションを前提としつつ外部の意見を聴く制度5)を導入することが憲法上許されないとまでは言い難い。中間報告書及び最終報告書の記述をみる限り、あくまで学術会議の機能強化が改革の理由とされている。ただし、新法の仕組みや運用により、学問の自由を踏まえた学術会議の自主性・自律性が過度に制限されるのではないかとの疑問が呈されており6)、それゆえに行政法学的には学術会議が国の違法・不当な関与について是正する機会を持ちうるかが関心事となる。以下では主に新法の制度・運用の在り方(Ⅱ~Ⅷ)と学術会議の出訴資格の有無(Ⅸ~Ⅹ)について検討する。¶001