事実の概要
X(原審債権者・抗告人)は、本件町田市立国際版画美術館(版画美術館)および同版画美術館の敷地と周辺部分によって構成される庭園(本件庭園)について、設計等を行なった建築設計事務所の代表者であった。Y市(原審債務者・相手方)は、版画美術館の所有者であり、版画美術館と本件庭園は昭和61年8月に竣工、版画美術館は昭和62年4月に開館した。その後、Y市は町田市立博物館の老朽化等が問題になったことから、平成22年に有識者による検討委員会を設置する等し、展示機能を持つY市の施設を「美術系」、「歴史民俗系」および「自然系」の施設群に整理し、市立博物館のうち美術工芸に係る部分および版画美術館からなる「美術系」の施設群については、美術系機能の連携による「美術ゾーン」を形成し、相乗効果を高めること、バリアフリーやアクセスの向上、美術系施設の運営の一体化の検討等の課題をまとめた。これらを踏まえ、Y市は、平成24年3月、美術工芸部門における新しい博物館の整備に着手すること、新しい博物館の名称を「(仮称)町田市立国際工芸美術館」とすること等を決めた。その後、Y市は整備に関する業務の委託先の公募を行い、令和元年以降には意見募集や説明会等を通じた住民等との意見交換等を経て、工芸美術館の新築に伴う各工事(本件各工事)を計画していた。これに対し、Xは、本件各工事によって加えられる変更により版画美術館および本件庭園に係るXの著作者人格権(同一性保持権)が侵害されるおそれがあるとして、本件各工事の差止めを求めた。原決定(東京地決令和4・11・25裁判所Web〔令3(ヨ)22075号〕)は、版画美術館についてXを著作者とする建築の著作物として保護を認め、また本件各工事による変更がXの意に反する改変に当たるとしつつ、著作権法20条2項2号の「建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変」に該当するとし、また本件庭園については建築の著作物としての保護を否定し、結果、本件申立てをいずれも却下するとした。これを受けXは即時抗告した。¶001