FONT SIZE
S 文字の大きさを変更できます
M 文字の大きさを変更できます
L 文字の大きさを変更できます

はじめに

令和6年度の判例を概観するにあたり、判時2566号から2601号まで、および、判タ1513号から1524号までを主に参照した。必要に応じて裁判所ウェブサイト等に掲載されている判例も掲載した。もっとも、前年度までに紹介された裁判例は原則として割愛した。¶001

Ⅰ 判決手続関係

1 裁判所

専属管轄

大阪高判令和4・9・30(判時2577号85頁、民事訴訟法1)は、Yに研究を委託する契約(本件契約)を締結したXが、Yの理事である研究者Aにより発明された本件発明が、本件契約に基づく研究により得られた成果物であることを前提として、A個人が本件発明を単独で特許出願したことが、Yによる本件契約上の協議義務の違反等に当たる旨主張して、Yに対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。Xの請求を棄却した原判決に対してXが控訴した控訴審において、この訴えの専属管轄が問題とされた。本判決は、民訴法6条1項に定める「特許権」「に関する訴え」には、特許権そのものでなくとも特許権の専用実施権や通常実施権さらには特許を受ける権利に関する訴えも含んで解されるべきであり、また、その訴えには、前記権利が訴訟物の内容をなす場合はもちろん、そうでなくとも、訴訟物または請求原因に関係し、その審理において専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定される場合も含まれるとした上で、本件は、訴状の記載から、特許を受ける権利が請求原因に関係しているといえるし、その判断のためには専門技術的な事項の理解が必要となることが類型的抽象的に想定されることから、「特許権」「に関する訴え」に含まれると解するのが相当であるとし、民訴法309条により、原判決を取り消し、民訴法6条1項2号により専属管轄を有する大阪地裁への移送を命じた。¶002