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Ⅰ 明治9年太政官指令の位置付けをめぐって

1 現行民法/明治民法/旧民法

民法750条が定める夫婦同氏制については、平成8年に法制審議会が行った選択的夫婦別氏制導入の立法提案が頓挫した後、違憲判断を求める提訴や法改正を目指す動きが活発にありつつも、本稿執筆時点(令和7年5月)でなお維持されている1)。かかる状況下、夫婦同氏制の歴史的前提が――とりわけ、現行法を擁護する立場が〈伝統〉なるものを援引することへの批判として――問われることがある。本稿はかような問いを受けて、基礎法学の一分野たる日本法制史学(日本の法についての歴史学)を専攻する筆者が、過去の事実について歴史学的な認識を提示するものである。選択的夫婦別氏制導入の是非それ自体を論じるものでないことは、最初に断っておく。¶001