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事実の概要

(1)

A(40歳男性)は、平成11年頃から精神的な症状があり、社会福祉法人Y(被告・被控訴人)が経営するB病院(実質的に精神科単科病院)に入院・通院を繰り返してきた。平成28年12月6日にAの両親であるXら(原告・控訴人)とともにB病院の外来を受診し、統合失調症との診断を受け、B病院院長はXの同意を得た上、Aを医療保護入院させた。9日、大声、意味不明な言動による多動、不穏な様子が継続したため保護室に隔離した。14日、診察をしたC医師は、前日まで時々怒号や暴力が見られたことを踏まえて、Aを静養室へ移動させ、身体的拘束(四肢、体幹、肩抑制)を開始した。拘束開始時には興奮や抵抗はなかったものの、その後もまとまりのない言動や妄想が続いた。身体的拘束にあたり、C医師は看護師に対し、状況次第では食事・洗面・トイレ等の日常生活において拘束帯を外すこと、行動制限観察記録に記載することを指示していた。他方、Aに弾性ストッキングは装着されておらず、間欠的空気圧迫法も実施されていなかった。20日午前10時頃、入浴に備えるためD准看護師はC医師の指示に基づき上肢および下肢の拘束を外し、10時10分頃トイレへ行くため体幹および肩拘束も外した。Aはトイレからベッドに戻った後、看護師らに何の訴えをすることもなくベッドに座っていたので、D准看護師は10時15分から20分頃、身体的拘束を再開せずに静養室を出た。10時30分頃ナース室へ戻りモニターの映像を見たところ、Aがベッドと壁の間に倒れこんでいるのを発見した。すでに呼吸は停止しており、11時に死亡が確認された(下肢深部静脈血栓による急性肺血栓塞栓症)。XらはYに対し、違法に身体拘束を開始・継続し、身体拘束による肺動脈血栓塞栓症の発症を回避するための注意義務に違反した過失によりAが死亡したとして、使用者責任に基づき損害賠償の請求訴訟を提起した。¶001