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はじめに

国連の主要な人権条約には、人権侵害を受けたとされる個人が、その国において利用できる国内的救済を尽くした後に、人権条約機関へ通報し救済を求めることができる制度が導入されている(個人通報制度)。国連の人権条約機関は事件受理の許容性審査と本案審査を経て見解(views)を出す。見解には拘束力はないが、国連の権威ある機関の決定としてその影響力は決して小さくない。¶001

こうした国連の人権条約機関、すなわち、国連の人権諸条約の下に設置されている委員会が扱った気候変動訴訟としては次の3件がある。①気候変動による悪影響を理由とする難民(気候難民)の送還事案である、テイティオタ対ニュージーランド事件自由権規約委員会見解1)(2019年10月24日)、②複数の子どもが諸外国を相手方として気候変動対策の不十分さが人権侵害であることを訴えた、サッチほか対アルゼンチン・ブラジル・フランス・ドイツ・トルコ事件児童の権利委員会決定2)(2021年9月22日)、③少数民族が自国政府の不十分な気候変動対策を理由に人権侵害を訴えた、ビリーほか対オーストラリア事件自由権規約委員会見解3)(2022年7月21日)である。¶002