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Ⅰ 緒論――理想と現実のはざまで

第一次分権改革に係る「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(分権改革一括法)」(平成11年法律第87号)以降の日本の地方財政の四半世紀を振り返ったとき、何か1つ興味深いトピックを取り上げるとしたら、「ふるさと納税制度」(「ふるさと応援寄附金制度」ともいわれるが、以下では「ふるさと納税制度」という)をおいてほかにない。¶001

制度開始当初の平成20(2008)年度においては、寄附金受入総額は81.4億円にすぎなかったものの、現在では、1兆円を超える規模に達している(令和5〔2023〕年度の全国の地方団体の寄附金受入総額は初めて1兆円を超え、1兆1175億円になっている)1)。本稿の読者の中には、ふるさと納税を利用している(利用していた)人もそうではない人もいるところ、ふるさと納税制度は地方財政制度、特に寄附者の住所地地方団体における住民税減収に対する地方交付税による補塡措置を通じて、ふるさと納税を利用していない人や将来世代を含めて、すべての国民(住民)に影響を及ぼしつつある。換言すれば、ふるさと納税制度のあり方を1つの反省の契機として振り返ることは、この四半世紀の間の、日本の地方財政の課題、すなわち、財政に関する自己決定を確立し、地方団体の財政規律を図る2)という理想と、実際にはその姿からほど遠い現実との乖離3)を浮き彫りにする作業でもある。この点において、ふるさと納税制度は日本の地方財政の課題を再検討するに当たって、好個の素材を提供する。¶002