本件の被告人は電車転覆致死傷等の事実で起訴され、第1審で有罪とされた。控訴審は、第1審裁判所が、検察官による起訴状朗読に先立って被告人側がした、本件起訴は無効であるなどとする陳述を許容したことなどについて、その訴訟手続に法令違反があるとする一方、当該違法と判決との間の因果関係を認めず、原判決を破棄しなかった。これに対して検察官が、刑訴法379条の解釈に関する高裁判例に相反するなどとして上告した。最高裁は上告を棄却し、判例違反の点について次のように述べた。「刑訴384条により控訴理由の一とされている同法379条〔は〕、……『訴訟手続に法令の違反があってその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであること』と規定しており、従って訴訟手続に法令違反があっても、その違反が積極的に判決に影響を及ぼすことが明らかでない限り、同法379条の控訴理由とならないことを規定したもの」であり、「旧刑訴411条が『法令ニ違反シタルコトアリト雖判決ニ影響ヲ及ホササルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得ス』と規定し、もって消極的に判決に影響を及ぼさないことが明白な法令違反についてのみ上告理由とならないことを規定したのとは、異なる……。従って刑訴379条の場合は、訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすべき可能性があるというだけでは、控訴理由とすることはできないのであって、その法令違反がなかったならば現になされている判決とは異る判決がなされたであろうという蓋然性がある場合でなければ、同条の法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるということはできない……。……所論引用の高等裁判所各判例中、以上説示の趣旨に反するところは変更せらるべきものである」。
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「判批」刑事訴訟法判例百選〔第11版〕(別冊ジュリスト267号)265頁(YOLJ-B0267951)