Ⅰ はじめに
本稿は、普天間飛行場の辺野古沿岸(大浦湾も含む)への移設(以下、「新基地建設」という)を巡って沖縄県(以下、「県」という)と国との間で生じている一連の訴訟(以下、「辺野古基地訴訟」という)について、その前提となる訴訟制度(Ⅱ)、最高裁判決と行政法学上の論点(Ⅲ)を主に解説するものである。¶001
法的論点は多岐にわたるが、現状では《国が新基地建設を目的とした辺野古沿岸の埋立てを適法にできるか》に収斂する。すなわち、国が、この埋立て(以下、「本件埋立て」という)を適法に実施するためには、公有水面埋立法(以下、「公水法」という)42条1項(3項)に基づき都道府県知事の「承認」(変更の承認)が必要であるところ、県知事(以下、「知事」という)は自らこの承認(変更の承認)の効力を否定する(取消し、撤回、不承認)一方で、国(国土交通大臣)は知事の権限行使を取り消す「関与」を行い、承認(変更の承認)の効力を維持し(得よ)うとするものである。現状の辺野古基地訴訟の構造は、実質的にみて、このような国の「関与」に対して県(知事)が争うものといってよい。しかし、一連の訴訟は、本件埋立ての公水法適合性という基本的論点に、自治体と国との間を規律する地方自治法(以下、「自治法」という)上の論点、さらには、私人の簡易迅速な権利救済を目的とする行政不服審査法(以下、「行審法」という)上の論点が複雑に絡むことで、一見しただけでは容易に理解できないものとなっている。そこで、本稿は、公水法の要件適合性の前提となる、自治法制度や行審法制度とそれに関連する論点を中心に解説することで、一連の訴訟を整理することを目的とする。¶002