Ⅰ はじめに
本年9月1日、内閣感染症危機管理統括庁が発足した。以下では、その発足までの経緯を振り返った上で、その内容に関する諸点について検討する1)。また、関連する組織として、令和7年度以降に設立が予定されている国立健康危機管理研究機構についても簡単に触れる。¶001
Ⅱ 経緯
新型コロナウイルスの感染者が国内で初めて確認されてから2年数カ月が経過した令和4年4月、内閣官房において「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」)が組織され、それまでの政府の対応への評価、当該対応に係る中長期的観点からの課題についての整理が行われ、報告書「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」(以下、「有識者会議報告書」)がまとめられた2)。そこでは、パンデミックに対する国の意思決定組織に関して、「次の感染症危機に対する政府の体制づくり」として、医療機関等への行政権限の強化など危機に迅速・的確に対応するための司令塔機能を強化するとともに、強化された機能を活用して一元的に感染対策を指揮する司令塔組織を整備することが必要であるとされた(有識者会議報告書3(2))。岸田文雄氏は、令和3年9月に行われた自由民主党総裁選挙において、公衆衛生分野の危機管理を一元的に担う司令塔機能を持った組織として「健康危機管理庁(仮称)」の創設を提唱し3)、首相就任後の同年11月にその構想を翌年6月までに示す方針を明らかにしていた4)。そして、政府内において具体的に検討が進められていたところ5)、令和4年6月17日、新型コロナウイルス感染症対策本部(以下、「政府対策本部」)は、有識者会議報告書の指摘を受け止める形で、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」(以下、「対応の方向性」)においてその設置等を決定した6)。この「対応の方向性」では、司令塔である内閣総理大臣の指揮命令を徹底するため、政府における平時・有事の体制、専門家組織を強化するとして、「感染症危機管理監(仮称)」を長とする「内閣感染症危機管理庁(仮称)」を内閣官房へ設置することが示された。また、厚生労働省において、各局にまたがる感染症対応・危機管理に関係する課室を統合した「感染症対策部(仮称)」を設けること、国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し、感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織(日本版CDC)を創設することなども示されている。¶002