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 事実の概要 

[①事件] 被害者が飲酒酩酊のため抗拒不能であるのに乗じて性交したとされる事件。公判前整理手続で、被害者が抗拒不能であったか、被告人にその認識があったかが争点であると整理された。1審判決(福岡地久留米支判平成31・3・12刑集75巻6号620頁参照)は、抗拒不能の認識がなかったとする被告人の公判供述の信用性は否定できず、被告人にその認識があったことには合理的な疑いがあるとして、無罪を言い渡した。検察官は、控訴して、被告人の認識についての事実誤認を主張し、被告人質問を請求する見込みとした。期日前の打合せで、控訴審裁判所は、被告人に被害者が抗拒不能でないと誤信するような事情や被害者が性交に同意したと誤信するような事情がなかったかについて質問する必要があるので、職権による被告人質問を実施する見込みであると述べ、質問順序や質問時間を告げ、検察官および弁護人はこれを了承した。職権による被告人質問の際、弁護人は質問を行わず、検察官および裁判官の質問に被告人は黙秘した。ほかに事実取調べは行われず、控訴審判決(福岡高判令和2・2・5前掲刑集630頁参照)は、訴訟記録および1審で取り調べた証拠により、被告人に被害者が抗拒不能であるとの認識があったことは明らかで、1審判決の認定は論理則、経験則に反するとして、事実誤認により破棄し、有罪の自判をした。判例違反等を主張して被告人上告。¶001