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Ⅰ 景表法におけるデジタル・アナログ一体原則

本稿は、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号、以下、「景表法」という)によるデジタル広告規制の現状と課題を論ずる。まずは対応する条文を検討するのが法律家の一般的な思考であるが、景表法には、デジタル広告に特化した条文は一つもない。それどころか、2023年景表法改正(不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律〔令和5年法律第29号、以下、「2023年改正法」という〕による)の議論の中では、消費者庁が、景表法におけるデジタル・アナログ一体原則と呼べる考え方を採用している。すなわち、2023年改正法の立案の基となった消費者庁の「景品表示法検討会」ではデジタルの表示の保存義務が問題となり、その報告書1)において、「デジタル表示の中には、事後的に確認することが難しいものも含まれていると考えられる。しかし、景品表示法は、表示媒体に限定を設けず、また、表示一般に何らかの規制を課すものではない。同法において、禁止されるのは、一般消費者に誤認を与える不当表示であり、不当表示に該当するかどうかは、個別事案ごとに判断される。あらゆる表示媒体の中でデジタル表示についてだけ、不当表示がないにもかかわらず、一般的・一律に事業者に保存義務を課すことについては、景品表示法の規制目的や規制体系との関係で、その合理的な必要性や、必要性と手段との適合性についての検討が必要であり、また、あらゆる商品・サービスを供給する事業者が景品表示法の規制対象となり得ることから、現時点では、現実的に事業者の負担が大きく、慎重な検討が必要と考えられる」とした(34頁、傍線筆者、以下同じ)。結果的に、2023年改正法には盛り込まれず、報告書の「中長期的に検討すべき課題」とされた。¶001