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Ⅰ はじめに

本稿では、最高裁の過去の議論を整理したうえで、マイナンバー(個人番号)制度の合憲性について判断を下した最高裁令和5年3月9日判決(令和4年(オ)第39号)を検討する。これまでマイナンバー制度の合憲性について争われた下級審裁判例では全て合憲判決が下されているが1)、これらの判決についても適宜、言及することとする。¶001

Ⅱ 最高裁判例における議論状況の整理

1 問題の所在としての私生活上の自由

最高裁判所はこれまで、幾つかの判決の中で憲法13条の下で保障されているとする私生活上の自由から、各事案に即応する個別の自由(みだりに~されない自由)を導出し、もって公権力による個人情報の取扱いの合憲性について判断を示してきた。この私生活上の自由を所謂プライバシー権と理解する見解もあるが2)、しかし、判決中に示される私生活上の自由とは一体いかなる自由であり、また、何故そのような自由が憲法13条の下で保障されうるのか、最高裁判所は十分な説明をしてこなかった3)。そこで、本判決について検討する前に、まずは最高裁判所がこれまで、どのような議論を展開してきたのか、過去の最高裁判例を簡単に整理する4)¶002