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Ⅰ 問題の所在

労働者の負った負傷等が業務災害と認められ労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」)に定める保険給付がなされ、当該労働者を使用する事業主がこれに不服を有する場合、当該事業主はいかなる形でこれを争えるか、あるいは、そもそも争えないか。この問題は必ずしも最近になって意識されたわけではない。しかし、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下、「徴収法」)12条3項に基づくいわゆるメリット制の適用を受ける事業主(以下、「特定事業主」)との関係において、厚生労働省(以下、「厚労省」)の従来の解釈運用と強い緊張に立つ下級審判決や行政不服審査会答申が示されていたところ、令和5年1月末、厚労省は従来の解釈運用を変更した1)。他方、東京高裁令和4年11月29日判決(労経速2505号3頁。以下、「令和4年東京高判」)は、厚労省による従来の解釈運用のみならず新しい解釈運用とも対立する立場を示した。本稿は、令和4年東京高判に焦点を合わせる形でこの問題を検討する。¶001