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 事実の概要 

X(債権者)は、金銭債権の支払をY(債務者)に命じる確定判決を得た。Xは、前記確定判決に基づいて、受刑者であるYがZ(第三債務者:国)に対して有する作業報奨金請求権の差押命令の申立てを行った。Xは、手続において、請求債権は名目上は貸金債権であるものの、実質的には、Yから詐欺被害に遭ったことによる不法行為に基づく損害賠償請求権であると主張した。¶001

原々審(山口地岩国支決令和3・9・30〔令3(ル)116号〕)はXの申立てを却下し、Xがこれに対して執行抗告を行ったものの、原審(広島高決令和3・11・24〔令3(ラ)145号〕)は執行抗告を棄却した。原決定は、本件の請求債権は被害者が受刑者に対して有する損害賠償請求権であるとしながらも、①作業報奨金は釈放時に初めて発生する権利で、釈放前の受刑者は作業報奨金請求権を有さず、将来債権の差押えとしても、発生の確実性を欠く、②釈放時の作業報奨金の差押えは作業報奨金の趣旨目的に反し、釈放前の作業報奨金の差押えも釈放前の作業報奨金支給の趣旨目的にそぐわない、③釈放前の作業報奨金の支給は被害者への損害賠償を目的とはしていないし、被害者による差押えは、受刑者の改善更生の観点から受刑者の自発的申出を釈放前の支給の条件とする趣旨を没却する、として、作業報奨金請求権は差押えの対象とならないと判断した。¶002