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はじめに

エホバの証人剣道受講拒否事件判決1)や「君が代」懲戒処分判決2)は、行政処分が憲法上の権利の間接的制約にあたることを理由に、行政裁量の比較的厳格な統制を行ったことで知られる3)。これらの判決は、学説において概ね肯定的に評価されているが、その一方で、行政処分の憲法適合性、すなわち処分違憲の可能性を正面から問うべきであったという批判も少なくない4)。本稿は、こうした議論に鑑みて、なぜ判例において行政処分の憲法適合性の審査が回避されがちであるのかを、検討しようとするものである。この問題に関しては、すでに多くの論稿が発表されているが、処分違憲の回避がどのような憲法上の論拠に基づいているかについては、なお踏み込んだ検討を行う余地があるように思われる。本稿は、ドイツの議論を参照することによって、この課題を果たすこととしたい。¶001