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Ⅰ はじめに

1 違憲審査の担い手と先例拘束性

憲法81条が違憲審査権を最高裁判所と下級裁判所に与えていることから、違憲審査の担い手は、最高裁裁判官と下級審裁判官となる。しかし、違憲審査権を行使する終審の裁判所は最高裁(同条)であり、また、通説は最高裁の先例に少なくとも事実上の拘束力を認める1)。判例を法とする明文規定がない中で先例拘束性を認める根拠を、「裁判というものは国の作用であり、国の意思表示であって、裁判官は、個人としてではなく、国の機関という立場においてこれを行うのだから、裁判は本来だれがそれを担当しようと同じであるべき性質のもの」2)である点に求める、ここから一歩進めて「裁判官一体の原則」まで導出するならば、下級審裁判官が「判例の発展の因子」となり「判例を動かして行く原動力」となる3)のは難しいだろう4)。また、なぜの先例が拘束力を有するのかという問いに対し、先例の内容ではなく、終審の裁判所という最高裁の憲法上の地位だけを根拠とするならば5)、法解釈についての「国としての有権的解釈」は最高裁法廷意見の判断のみを指し、裁判官全員一致の判例の安定度は反対意見のあるものより高いともいえ6)、最高裁の個別意見の意義が縮減される可能性もある。¶001