FONT SIZE
S
M
L

Ⅰ はじめに

企業とその資本提供者の関係を明らかにして、その最適な制度設計を研究するファイナンス研究において、買収と買収防衛策(防衛策)の効果は、株式市場および会社支配権市場を通した上場企業の経営権の配分メカニズムの効率性に直接関係する重要な研究課題として、理論研究と実証研究が蓄積されてきた。その中で防衛策は、導入企業に対する買収の行方のみでなく、導入そのものが導入企業の企業経営に与える影響も注目されている。防衛策の導入は、理論的には企業価値に対してプラスにも、マイナスにも働く可能性があり、その最適な設計は実証的な知見なくしては議論できない。その実証的知見は、本稿で紹介するように防衛策の経済的な効果は、企業のガバナンス状態、株式市場の状態、買手企業とターゲット企業の関係などに依存して決定されること、それぞれが短期的効果と長期的効果を持ちうることを明らかにしており、こうした実証的事実を考慮した制度設計が必要であることを示唆する。¶001