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近年、ルクセンブルク・リークス(2014年)、ディーゼル・ゲート(2015年)、パナマ文書(2016年)、ケンブリッジ・アナリティカ事件(2018年)といった、市民や社会の利益に対する重大な不法行為およびその疑惑が明るみになる際、公益通報者ないし内部告発者(whistleblower)が重要な役割を果たすことが示されている。¶001
欧州人権裁判所の判例によれば、表現の自由(欧州人権条約10条)は情報を伝える自由(the freedom to impart information)を含んでおり、公益通報という行為は、一定条件下では同条により保護されている(公務員については、Guja v. Moldova, no. 14277/04, 2008.2.12. 私人については、Heinisch v. Germany, no. 28274/08, 2011.7.21. 濱野恵「EU公益通報者保護指令」外国の立法289号〔2021年〕3頁以下参照)。名誉毀損やプライバシー侵害にあたる表現にも、相手方の人格権を保護するために一定の制限がかけられているが、経験則的にこれらの表現は放っておいてもなされ、公益に資する部分(+α)のみを保護すればよい。他方で、自らの所属する組織を「攻撃」する公益通報は、それよりもインセンティブが少なく、むしろ不利益が大きいため、これを保護する法的仕組みの必要性が大きい(牧本公明「公務員による公益通報の保護の現状と『表現の自由』」松山大学論集24巻6号〔2013年〕252頁以下も参照)。¶002