Ⅰ はじめに
2021年2月10日の法制審議会総会第189回会議において、当時の上川陽子法務大臣より諮問第113号として「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み、子の利益の確保等の観点から、離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい」との発議があり、続いて「父母の離婚後の子の養育に関わる我が国の法制度については、近時、様々な問題点の指摘がされているところであり、離婚やこれに関連する法制度の在り方が大変重要な課題となっております。その背景として、①父母の離婚によって生ずる子の貧困の問題、②非監護親と子との適切な交流の実施といった子の福祉に関わる問題、③女性の社会進出や父親の育児への関与の高まり等から、子の養育の在り方や国民意識が多様化している社会情勢があります。そこで、このような社会情勢に鑑み、子の最善の利益を図る観点から、①父母の離婚後の子の養育の在り方、②未成年養子縁組制度の見直し、③財産分与制度の見直し等に関する検討が必要であると考えております。私がこれまでも申し上げてきたチルドレン・ファースト、すなわち子どもを第一に考える視点で、幅広く、また、実態に即した御検討をお願いするものでございます」との説明が大臣よりなされた1)。この諮問に沿って同年3月に家族法制部会(以下「部会」という)の第1回会議が開催され、以降、ほぼ月1回開催され、2年が過ぎた2)。筆者は発達心理学を専攻しており、法学的な知識や司法実践には遠い存在であるが、夫婦関係・親子関係や養育と子どもの発達との関連を研究しているところから今回の部会に参加させていただくこととなった。本稿では、これまでの経過のなかで子ども自身に関わるいくつかの論点についてどのように議論されてきたか、簡単に論じる。ここに記載させていただく事項については、筆者個人の観点から述べさせていただく私見であり、部会の総意とは別のものであることをお断りする。¶001