Ⅰ はじめに
今回の連載では、JV(Joint Venture:合弁会社)の組成を行う場合を想定して、知的財産の取扱いを見ていきたいと思います。¶001
M&Aというと、典型的には株式譲渡(ストックディール)や、事業譲渡あるいは会社分割による特定の事業の切り出し・承継(アセットディール)が想定されます。ストックディールの場合、知的財産に関してまず問題となるのは、対象会社がその事業の継続に必要な知的財産及びそれに対する権利を適法に利用できるかどうかです。そのために、これらの権利を適法に保有しているか、あるいは第三者から適法なライセンスを受けているかを明らかにする必要があり、加えて、第三者の知的財産権を侵害していないか、知的財産に関する紛争はあるのか、知的財産の管理体制は整っているか、職務発明の処理は適切か、といった点について検討する必要があります。さらに、対象会社が、売主がグループとして管理している知的財産を使用していた場合は、株式譲渡後にもその使用を認めてもらう必要があるのかも検討を要します。また、アセットディールでは、ストックディールとは異なり、知的財産権をある法人から別の法人に移転する、という要素が必ず伴うことになりますので、上記の観点に加えて、移転すべき知的財産権を厳密に特定する、という作業が必要になります。これらの作業は、いわゆる知財デュー・ディリジェンスとして行われます(知財デュー・ディリジェンスについては、法実務の交差点【知財編】第10回をご参照ください)。ストックディールかアセットディールかにかかわらず、これらの問題は、大まかにいえば、既に存在している知的財産やそれに対する権利等(事業活動の一部として機能している知的財産・知的財産権及びその管理のための体制)の取扱い、に焦点が当たっているものです。なお、事業譲渡、合併・会社分割、株式譲渡などの各M&Aストラクチャーにおける知的財産権の取扱いについては、法実務の交差点【知財編】第11回も合わせてご参照ください。¶002
一方で、JVの組成を行う場合には、今後発生する可能性がある知的財産にも焦点が当たります。すなわち、JVにおいては、知的財産を創出するためのリソースをどう提供するかというところから始まり、JVにおける知的財産の創出に関する事項、加えて、そのJV存続中の知的財産権の利用・処分、そのための体制整備、そしてJV解消時の処理と、JVの組成から解消までの時間軸に従って、ストックディールやアセットディールにはない様々な問題が生じます。また、それらの問題は、上記のような典型的なM&Aにおける場合以上に、知的財産法上のルールにも大きく影響を受けます。これらの問題がまとめて取り上げられることは、典型的なM&Aの場面では少ないように思われますので、今回は、敢えて少し違う角度から知的財産法に焦点を当てるアプローチで、JVの組成から解消までのダイナミクスの中で知的財産法がどのように関わるのかを考察してみたいと思います。¶003