事実の概要
「芸術その他の文化の向上に寄与することを目的とする」(独立行政法人日本芸術文化振興会法3条)独立行政法人Y(被告・控訴人・被上告人)に対して、映画製作会社X(原告・被控訴人・上告人)は、その製作映画に対する「文化芸術振興費補助金に係る助成金」(振興会法14条1項1号参照)の交付を希望していた。¶001
Yにおいて定められていた同助成金の交付要綱に基づき、手続の流れは以下のようであった。Xが事前に助成金の交付要望書を提出したのに対して、外部有識者(要するに芸術の専門家である)で構成される芸術文化振興基金運営委員会の答申を経たうえで、Yの理事長から交付の内定(平成31年3月29日付)およびその通知がなされた。これを承けてXが正式に助成金の交付申請書(振興会法17条が準用する「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」5条参照)を提出するも、本件映画に出演していた俳優Aにおいて麻薬取締法違反による有罪判決(令和元・6・18)が確定したことから、Y理事長は、公益性の観点から適当でないとの理由によって助成金を交付しない旨の決定(同年7月10日付)を行った。なおYにおいて当該要綱が改正され「公益の観点から助成金の交付決定が不適当と認められる場合」に交付の内定ないし決定を取り消しうる旨の規定を設けたのは本件決定後のことであった。¶002