2025年5月1日、「婚氏・出生氏法および国際氏名法に関する改正法」(BGBl. 2024 I Nr. 185)が施行された。本改正は、1991年連邦憲法裁判所決定(BVerfGE 84, 9)を受けた1993年改正での夫婦別氏の採用、2017年同性婚合法化による2018年改正に次ぐドイツ民法典の抜本的改正となった。¶001
本改正の背景
ドイツでは、1896年に民法典が制定され、夫の氏を婚氏(Familienname/Ehename)とすることが義務付けられていた(1355条)が、妻が出生氏(Geburtsname)を付随氏(Begleitname)として併記することは慣習的に認められていた。その夫婦の嫡出子は、出生氏として親の氏がそのまま登録された(1616条)。1957年の男女同権法に合わせた改正では、妻の付随氏使用の権利が明文化されたものの、婚姻時に夫の氏を婚氏とすることには変わりなかった。1976年改正でようやく、夫または妻の一方の氏を共通の婚氏とすることを選択できるようになったものの、婚姻時に婚氏を定めない場合は夫の氏を婚氏とする規定が追加された(1355条2項)。付随氏は夫婦のうち氏を変更した側が使用し、出生氏だけでなく新たに登録済みの婚氏も使用できるようになった(同条3項)。この1355条2項が、1991年連邦憲法裁判所決定で基本法3条2項に違反するとされたことにより、1993年に1355条が改正されたが、夫婦同氏原則の例外措置としてようやく別氏が認められるようになった。子の出生氏については、同氏夫婦の嫡出子は親の婚氏であり、別氏夫婦の嫡出子の場合は一方の親の氏に限定し、複合氏は取得できないとした。2018年改正では同性婚に対応すべく、「Frau/Mann」(妻/夫)が「Ehegatten」(婚姻当事者)に置き換えられたが、それでもなお婚姻後の同氏が原則であることは維持されていた。¶002