事実の概要
X(原告・控訴人・上告人)は、昭和57年2月自動車を運転中、Y1(被告・被控訴人・被上告人)運転のY2会社(被告・被控訴人・被上告人)所有の加害車に衝突され、頸部挫傷の傷害を負い、休業を余儀なくされたとして、Y1およびY2に対して不法行為に基づく損害賠償を訴求した。XはA損害保険会社の所得補償保険に加入しており、本件事故により就業不能となったため所得補償保険金が支給された。そこで、Y1およびY2は、この保険金の額をXの損害額から控除すべきであると主張した。第1審・第2審とも、商法662条(平成20年保険法施行前のもの。以下同じ)により、A保険会社は保険金の限度でXのY1・Y2に対する損害賠償請求権を取得し、その分をXのY1・Y2に対する賠償請求権から控除すべきであると判示した。そこで、Xは、次のように主張して、上告した。①所得補償保険の保険会社は保険金支払により加害者に対する賠償請求権を代位取得したとしてもこれを行使しない実情にあり、保険会社は、加入者が保険金を受け取っても加入者が加害者から受ける損害賠償額には影響がない旨を説明してこの保険を販売している。②Xは保険会社が代位取得した権利を行使しない分だけ高い保険料を支払っているのだから、保険金の分を加害者への賠償請求権から控除するのはおかしい。③Xが保険料を出捐する所得補償保険のおかげで加害者の責任負担が軽減される結果となることは不公平である。④自ら保険料を出捐して自己防衛をする者と何もしない者との間で結果的にその受ける救済の総額が同じというのはおかしいので、保険会社と被保険者との間で、保険契約締結の際に、商法662条の適用を排除する旨の黙示の合意があると認めるべき社会的基盤がある。¶001