FONT SIZE
S
M
L

Ⅰ はじめに

EUの気候変動対策は、2019年12月にvon der Leyen欧州委員会が欧州グリーンディール1)を公表したことから大きく前進している。また、欧州グリーンディールを確実に実施するためのFit for 552)が公表され、提案されたさまざまな措置が矢継ぎ早に採択されてきた。本特集で取り上げられるEU排出量取引(EU-ETS)の適用範囲の拡大、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則もそこに含まれている。加えて、Juncker欧州委員会の下で2015年にサーキュラーエコノミー(循環経済、circular economy)行動計画が公表され、von der Leyen欧州委員会の下で2020年にあらためて新サーキュラーエコノミー行動計画が公表された3)。EUのサーキュラーエコノミーは、持続可能で低炭素、資源効率的で競争力のある経済発展に寄与するものとされ、「経済」と結びついている。この文脈に、本特集で取り上げられるバッテリー規則が位置づけられる。また、2022年に繊維消費が環境や気候変動に悪影響を与えていることから、持続可能かつ循環型繊維のためのEU戦略4)が公表された。ロシアによるウクライナ侵攻によりロシアへのエネルギー依存から脱却する必要性が生まれたが、欧州委員会は石炭燃料に後戻りするのではなく、エネルギー効率の促進、再生可能エネルギーの割合の増加等によりクリーンエネルギーへの移行を進めるという方針を2022年3月にREPowerEU文書5)、同年5月にREPowerEU計画文書6)において公表し、Fit for 55の政策パッケージを迅速に採択する道を選択した。さらに、欧州委員会は、2023年2月にグリーンディール産業計画7)を公表した。これは、予測可能でシンプルな規制環境を構築し、民間投資と人材を呼び込み、サプライチェーンを強靭化し、欧州産業の戦略的自立性にとって重要な産業の発展を促すものである8)。EUの気候変動対策は、経済や産業と結びついて措置が採られているところに特徴がある。また、CBAM規則にみられるように、レベルプレイングフィールド(level playing field)を同じにするという考え方が背景にあり、単に環境保護を目指すのではなく、競争力を維持することが目的になっている。欧州委員会は、欧州統合推進者であり、このようにさまざまな戦略的文書を公表し、具体的な提案に至る前に長期的な目標や実現すべき将来像を加盟国、企業及びEU市民等に示してきている。以下では、このような戦略的文書が落とし込まれる具体的な措置を法的観点からみていくことにする。¶001