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Ⅰ はじめに

1 本稿の目的

本稿は、世間でも注目を集めている一連の「生活保護基準引下げ訴訟」(「いのちのとりで裁判」の呼称でも知られる)について、問題の所在を概観したうえで、同種の訴訟の歴史的な流れを整理し、近時の注目すべき判決である名古屋高裁令和5年11月30日判決(裁判所Web〔令和2年(行コ)第31号〕)を検討することを目的とする。¶001

2 生活保護と生活保護基準

(1)社会保障と生活保護

日本において、社会保障は憲法25条に根拠をもつ。社会保障法学の観点からすると、日本の社会保障制度は大きく4つの制度類型からなる。社会保険(公的年金や医療保険など)、社会手当(児童手当など)、社会福祉サービス(保育所や障害者福祉など)、そして公的扶助である。このうち公的扶助は、「自力では最低限度の生活を送れない困窮者に対して、税を財源として最低限度の生活を保障することを目的とする制度」(笠木映里ほか『社会保障法』〔有斐閣、2018年〕459頁[嵩さやか])である。そして公的扶助の中核をなすのが、生活保護である。¶002