* 本稿は筆者個人の見解であって、所属する組織を代表するものではない。¶001
Ⅰ はじめに
本稿においては、令和初期に行われた発効が確定していない条約の公布時期の変更(前倒し)を巡る経緯や意義、関連論点の検討を行い、条約の公布、関連告示を巡る問題状況を明らかにする。日本国憲法の下、昭和・平成期においては、条約の効力発生が確定した後に締結済条約を公布することが一貫した慣行であったが、令和に入り、条約の公布は条約の効力発生の確定を待つことなく、我が国による締結(国家の権限のある機関が条約に拘束される意思を表明する行為を行うこと1))後速やかに実施されている。条約に関する法令上の定めが限られるという事情もあり、先例が重視されがちな条約実務の中で、この変更は注目すべき現象と言えるであろう。条約の公布時期の前倒しは肯定的に評価される一方で、指摘されていた関連する課題全てを解決するものではない。本稿においては、(Ⅱ)まず具体的な変更の内容を確認した上で、(Ⅲ)その背景・意義を検討し、さらに、(Ⅳ)条約の効力発生の告示を中心とする関連論点を検討し、問題状況を明らかにする。¶002