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はじめに

米国拠点の生成AI開発企業の渉外部門を最前線で指揮する知人は、ある日私にこう言った。「生成AIに対する社会の反応は、これまでの30年の経験の中で最も劇的なものだったよ。リリースしてから最初の2か月間、世間はこの技術に賞賛を送り、これこそが人類の未来だともてはやした。ところがその直後に、今度は生成AIがいかにして人類を滅亡させるかという話で持ちきりになってしまったんだ。」¶001

2023年のデジタル規制の話題は、生成AIに始まり生成AIに終わったといっても過言ではない。OpenAI社の最新モデルであるGPT-4がリリースされたのと同じ3月には、個人データの処理が不適法である疑いがあることなどを理由として、イタリアのデータ保護当局がChatGPTの使用を一時停止する命令を下した。同じ月には、Future of Life Instituteのウェブサイト上で、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏、実業家のイーロン・マスク氏、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏を含む世界中の技術者や研究者が、全てのAI研究機関に少なくとも6か月間、GPT-4より強力なAIの開発を中止するよう求める声明に署名した。著作権侵害やプライバシー侵害等を理由とする訴訟提起の動きも世界中で相次いだ。5月には、米国議会上院の公聴会において、OpenAI社のサム・アルトマンCEOが、AI規制に全面的に協力する旨を表明した。7月には、同社を含む主要企業7社が、ホワイトハウスに対して生成AIのセキュリティ等に関する自主的なコミットメントを行った。AIに対する世界初の包括的な規制を謳ったEUのAI法を巡る交渉(トリローグ)は、生成AIの扱いを巡って数か月にわたって紛糾し、12月に実施された36時間に及ぶ最終調整の結果ようやく大筋合意に取り付けた。¶002