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事実の概要

A男とY女の婚姻届が昭和42年3月15日に提出されたが、Aは同日死亡している。判例時報には原審判決は掲載されていないが、上告理由によると以下のごとき経緯だったようである。¶001

AとYとは交際していたが同棲してはいなかったところ、昭和42年3月7日、Aは外出中に突然吐血して倒れ、帰宅後も2回にわたり大量に吐血して意識不明に陥った。翌朝入院して切開手術を受けたが、出血の原因は肝硬変による食道動脈瘤の破裂によるもので処置の施しようがないため、手術を中止して切開したところを閉じてなりゆきを見守ることとなった。病院の中で、Aは、YおよびAの兄であるBに対して正式に婚姻届をなすことの同意を求め、Aの願いによりBが婚姻届用紙にAの名前を代書して実印を押し、これが15日の区役所の受付開始時刻である午前9時早々に提出されたが、他方、Aは、同日の朝また大出血をして午前10時30分に死亡した。本件は、Aの母であるXが、「婚姻届はAの意思に基づくものではなく、YとBとが共謀して、年金や共済組合の給付金を横取りするために仮装したものである」旨を主張して、Yを被告として婚姻届の無効の確認を求めたものである。原審は婚姻届を有効と認めたが、Xは上告し、原審の事実認定を争うほか、婚姻届提出時(午前9時)にはAは瀕死の直前であったので婚姻意思がなかったことは明らかであるから婚姻届は無効であると主張した。¶002