事実の概要
X(原告・控訴人・被上告人)は、A建設会社との間で、X所有の合計6筆の土地の売買契約を締結した。当時のAは、売買代金を現金ですぐに支払える経営状態になかったが、Xに対し、3通の約束手形を差し入れるので、上記6筆の土地の所有名義を直ちに変えてもらいたい旨要請した。AはXに対し、同手形決済資金は、本件土地上に建売住宅を建設・販売して調達するつもりであると説明しており、Xもこの説明を信じたため、非農地である5筆の土地についてはXからAへの所有権移転登記が、残り1筆の農地(こちらの土地を以下「本件土地」と呼ぶ)については、農地法5条の許可を停止条件とする所有権移転の仮登記が行われた。しかし、実際には、Aの資金繰りは相当に逼迫した状態にあり、建売住宅に関する具体的な事業計画を立てていたわけでもなかった。その後Aは、債権者Y(被告・被控訴人・上告人)にこれらの土地を売渡担保として譲渡し、上記5筆の土地についてはY名義への所有権移転登記を、本件土地については上記仮登記移転の付記登記を経由した上で事実上倒産した。Xは、上記の土地売買契約は、Aが不確実な計画を実現可能性があるかのように装って代金支払能力を誤信させ締結させたものであるから詐欺によるものであるとして売買契約取消しの意思表示を行い、上記5筆の土地については所有権移転登記手続を、本件土地については付記登記の抹消登記手続を、Yに請求した。一審は請求棄却。控訴審である原審は、AのXに対する詐欺の成立とYの善意を認めた上で、上記5筆の土地に関しては、Yに詐欺による取消しの結果を対抗しえないとしてXの請求を排斥したが、本件土地については、「目的物の所有権を取得せずにその物についての債権を有するだけの場合およびその所有権を取得した場合でも対抗要件を備えないときは……詐欺による取消の結果を対抗しうる」として、付記登記の抹消登記手続を認めた。Yが上告。¶001