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Ⅰ はじめに

近時、社会的制裁のあり方に注目が集まっている。例えば、インターネット上での「炎上」やキャンセルカルチャー(以下「CC」ということがある。)による言論の萎縮や抑制が語られるようになっている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大時には「自粛警察」と呼ばれる自粛を事実上強いる現象が注目された1)。また、2022年6月のツイート削除請求事件最高裁判決(最判令和4・6・24民集76巻5号1170頁)では、草野耕一裁判官が、補足意見において、実名報道の制裁的機能とその限界について論じたことが注目を集めた。社会的制裁については、法治国家では許されない私刑に当たるであるとか、適正手続から逸脱していると批判されることもある一方で、社会的制裁として機能し得る措置や言動には様々なものがあり、その許容性について一概に論ずることは容易ではない。また、社会的制裁について刑事制裁など法的制裁と対比する文脈で付随的に論じられることはあったものの、社会的制裁の意義と限界や適正手続との関係について法学的な議論の蓄積も少ない。そこで、本稿では、情報法の視点から、「炎上」やCC、実名報道などを題材にして、社会的制裁の意義と限界を探求するとともに、社会的制裁における適正手続のあり方を模索したい。¶001