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Ⅰ 改正の背景

1 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件

刑法の性犯罪規定は、平成16年以降大きな変遷を遂げてきた。平成16年改正で法定刑が引き上げられ、平成29年改正では、いわゆる性交類似行為のうち肛門性交・口腔性交も重大な法益侵害行為として性交と同等に扱うこととし、従来の強姦概念を大きく変更した。¶001

しかし、平成29年改正でも、強制性交等罪、強制わいせつ罪の「暴行・脅迫」要件、準強制性交等罪、準強制わいせつ罪の「心神喪失・抗拒不能」要件はそのまま維持され、いずれも著しく抵抗が困難な状態であることが必要であるとの解釈に変更はなかった。そこで、平成29年改正の附則(平成29年法律第72号改正附則9条)にあった3年後の見直しに向けて、「性犯罪に関する刑事法検討会」が設けられ、その「取りまとめ報告書(令和3年5月)」1)を受けて、法制審議会刑事法部会(性犯罪関係、以下「部会」とする)が設置され、令和5年2月に答申が出された。それを踏まえた刑法改正案が同年6月に全会一致で可決し・成立し、同年7月に施行された。¶002