FONT SIZE
S
M
L

はじめに

筆者に与えられた「審査基準論・利益衡量論と憲法判例」というテーマについては、総論的な議論は尽きているようにも感じている。比例原則論の指摘も容れつつ、審査基準論を、判例との関係をやや長い目でみながら、改訂していくのが適切であるというのが、筆者の基本的な考えだからである1)。ただ、近時、このような審査基準論の根本的発想を否定するかのようにみえる言説が、最高裁判事によって2)なされていることは無視しがたい。もとより、これに対しては、すでに、「海図もコンパスもなければ大海の航行は不可能である」との批判がなされており3)、これまた筆者に付け加えるものはない。ただ、このような立場は、必ずしも判例の立場ではなく、また、その後の調査官らの立場でもないと思われるので、ここでは、そのことを、近時の判例である大阪市ヘイトスピーチ条例事件・最高裁令和4年2月15日判決(民集76巻2号190頁)とその解説4)を用いて論じておきたい5)。併せて、実際にとられている立場についての若干の検討もおこなう。¶001