本判決は、集会、集団行進、集団示威運動(以下、集団行動)を規制の対象とする東京都公安条例(以下、本条例)の憲法21条適合性について判断したものである。本条例は道路等での集団行動に対し公安委員会の許可を受けることを義務づけていたが、被告人らはその許可を受けずに集団行進等を誘導した等として本条例違反の罪で起訴された。第一審東京地裁は本条例の問題点として、ⓐ規制対象の場所的限定に欠ける、ⓑ不許可事由として定めた「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」(以下、不許可事由)との文言が具体性を欠き不明確である、ⓒ不許可処分に通知義務がなく、許否が行動実施日まで保留された場合の救済手段もない等を挙げ、本条例は「一般的禁止を前提とする規制方式」であり憲法21条に違反するとして被告人らを無罪とした。東京高裁から事件の移送を受けた最高裁は、①単なる言論・出版と異なり、集団行動は群集心理により一瞬にして暴徒と化す危険が存在するため、出版等では禁止された事前規制を講ずることもやむを得ないとしたうえで、②本条例では不許可事由のほかは許可が義務づけられ、不許可の場合が厳格に制限されているから、規定の文面上は許可制であっても、実質は届出制と異ならない、③不許可事由は諸般の情況を具体的に検討、考量して判断すべき事項であるから、その認定が公安委員会の裁量に属することは当然であり、特に不許可の処分が不当である場合を想定し、または許否が行動実施日まで保留された場合の救済手段もないことを理由として本条例を違憲、無効と認めることはできない、④集団行動は法的に規制する必要があることから規制対象となる場所を包括的に掲げることもやむを得ない等と論じ、原判決を破棄、事件を第一審に差し戻した(裁判官2名の反対意見がある)。安保闘争が熾烈を極めるなかの本判決は、砂川判決やチャタレイ判決と並び田中耕太郎コートを代表する判決であり、議論のあった各公安条例の合憲性を決定づけた。本判決に先立つ本書Ⅰ-77事件が集団行動は本来自由であるとの前提から、その事前規制は厳格な要件のもとでのみ許容されるとの一般論を展開していたが、その基本的発想に従えば、第一審が挙げたような多くの不備が指摘されていた本条例について、違憲判断を回避することは困難であるとみられていた。そこで本判決はいわゆる集団暴徒化論により出版と集団行動を区別、集団行動は本来的に危険で規制が必要なものとする一方、公安委員会の事前の裁量的判断に信頼を寄せ、その濫用を前提とした議論を戒めるというⅠ-77事件の原則と例外を逆転させるかのような立論を展開、本条例を合憲に導いた。ただ、本判決はⅠ-77事件の明確な判例変更も回避しており、発想を異にする二つの判例が形式上併存する結果になっている。その後、屋外での集団行動規制が問題となった本書Ⅰ-14事件・Ⅰ-80事件等が本判決を参照する一方、特に屋内での集会規制が問題となった本書Ⅰ-75事件は本書Ⅰ-77事件を引用、その精神を受け継いでいる。
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木下昌彦「判批」憲法判例百選Ⅰ〔第8版〕(別冊ジュリスト273号)83頁(YOL-B0273911)