事実の概要
南北の敷地併せて10棟の集合住宅からなる「防衛庁立川宿舎」(以下、立川宿舎)は、防衛庁の職員およびその家族が居住するため、国が設置した宿舎であり、国家公務員宿舎法、同法施行令等により、陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長等によって管理されていた。立川宿舎の敷地は、鉄製フェンス等で囲まれていたが、一般道路に接する門扉のない開口部がいくつかあった。「立川自衛隊監視テント村」(以下、テント村)は、反戦平和を課題とする団体であり、示威運動や駐屯地に対する申入れ活動等を行っていたが、平成15年夏に関連法律が成立し、自衛隊のイラク派遣が迫ってきた頃から、これに反対する活動を積極的に行い、平成15年10月中頃から月1回の割合で、立川宿舎の各号棟の1階出入口の集合郵便受けまたは各室玄関ドアの新聞受けに、自衛官およびその家族に向け、自衛隊のイラク派遣に反対し、自衛官に対しイラク派兵に反対するよう促し、自衛官のためのホットラインの存在を知らせる内容のA4判大のビラを投函するようになった。平成15年12月にビラが投函された後、陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊厚生科長等の立川宿舎の管理業務に携わる者達は、管理者の意を受け、「宿舎地域内の禁止事項 一 関係者以外、地域内に立ち入ること 一 ビラ貼り・配り等の宣伝活動 …… 管理者」と印刷された禁止事項表示板を一般道路に接する各開口部隣のフェンスに設置し、管理者の意を受けて、警察に住居侵入の被害届を提出した。以後もテント村のビラ投函活動は続き、テント村に属する被告人らは、「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対! いっしょに考え、反対の声をあげよう!」等の表題の前同内容のA4判大のビラを、立川宿舎の各号棟の各室玄関ドアの新聞受けに投函する目的で、平成16年1月17日と平成16年2月22日の午前11時30分過ぎ頃から午後0時頃までの間、「立川宿舎の敷地内に立ち入った上、分担して、各棟1階出入口からそれぞれ4階の各室玄関前まで立ち入り、各室玄関ドアの新聞受けに上記ビラを投函する」等した(以下、本件行為)ところ、随時被害届が提出され、被告人らは本件行為が刑法130条前段の罪にあたるとして逮捕、起訴された。第一審(東京地八王子支判平成16・12・16判時1892号150頁)は、本件行為の構成要件該当性を肯定したものの、憲法21条1項の問題にも触れ、その行為の動機と態様などから刑事罰に値する程度の違法性はなかったとして、被告人らを無罪とした。第二審(東京高判平成17・12・9判時1949号169頁)は、本件行為による法益侵害の程度は極めて軽微なものであったということはできないとし、原判決を破棄、被告人らを有罪とし、これを不服とする被告人らが上告した。¶001