事実の概要
Y1(被告・被控訴人・被上告人)は、約11年間旭川市長を務めたのちに、1979年4月施行予定の北海道知事選挙への出馬を予定していた。X(原告・控訴人・上告人)を発行人とする雑誌『北方ジャーナル』は同年2月23日頃発売予定の4月号(予定発行部数2万5000部)に、「ある権力主義者の誘惑」と題する記事を掲載しようとしていた。記事は、Y1を「噓と、ハッタリと、カンニングの巧みな」少年であり、「言葉の魔術者であり、インチキ製品を叩き売っている(政治的な)大道ヤシ」、「天性の噓つき」、「素顔は、昼は人をたぶらかす詐欺師、夜は闇に乗ずる凶賊で、云うならばマムシの道三」、「クラブ……のホステスをしていた新しい女……を得るために、罪もない妻を卑劣な手段を用いて離別し、自殺せしめた」などとし、知事選への立候補も「知事になり権勢をほしいままにするのが目的である」等とするものであった。これを知ったY1は、同年2月16日、4月号の印刷、頒布等の禁止を命じる仮処分を札幌地裁に申請したところ、同日、無審尋でこれを相当とする仮処分決定がなされた。Xは、仮処分およびその申請が違法であると主張して、Y1その他およびY2(国―被告・被控訴人・被上告人)に対して損害賠償を請求したが、第1審(札幌地判昭和55・7・16民集40巻4号〔参〕908頁)は、請求を棄却し、第2審(札幌高判昭和56・3・26同民集〔参〕921頁)も請求を棄却した。このためXは、仮処分決定は、憲法21条に反するとして上告した。¶001